未来社会のデザイン〜AIと超長期の歴史把握の視点から〜

(2023.2)

「今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会(第2回)」にて、京都大学 人と社会の未来研究院 広井良典教授より、「未来社会のデザイン -AIと超長期の歴史把握の視点から-」と題する講演が行われました。

今後の、日本における教育の在り方、進むべき方向性への示唆に富んだ講演でしたので、その概要をご紹介します。

1.未来の構想

(文部科学省ホームページより)

講演は、日本の現状を改めて確認するところから始まりました。

まず、「日本の総人口の長期的トレンド」として、日本の人口が2008年に12,808万人でピークを迎えて以来、急激に下降線を辿っていることの指摘がありました。この勢いのまま進むと、2050年には10.192万人(高齢化率37.7%)、2100年には中位推計で5,972万人(高齢化率38.3%)にまで進んでしまうとの予想が立てられているそうです。
太平洋戦争が終戦となった1945年の総人口は7,199万人でしたから、それより1,227万人少ない上に、2,287万人は高齢者ということになります。

(文部科学省ホームページより)

これだけではなく、対GDP比での債務残債は日本が諸外国から突出して高いこと、生活保護を受けている割合が、1995年を下げ止まりに、2015年には1960年のレベルまで悪化していること、さらに、OECD加盟各国における「社会的孤立」の割合が、日本は最も高いことなども紹介されました。

(文部科学省ホームページより)


そこで、2050年に、持続可能な日本社会をつくるためには、どうしたらいいか。
AIを活用して定量的にシミュレーションを行い、提言としてまとめたのが、今回の講演でした。

(文部科学省ホームページより)

また、長い未来の見通しと共に考えないと人間の未来がわからない現状になっているとして、「宇宙ー地球ー生命ー人間」の歴史を一貫した視野の中でとらえる「Big History」という視座からの指摘もありました。
この考え方によると、人口・経済規模の拡大・成長が止まった定常期に、人類は大きな精神的変化を遂げてきたのだそうです。

(文部科学省ホームページより)

現在は人類史上3回目の定常化への過程にあり、さらに、21世紀後半以降は全世界的な人口減少が予想されることから、持続可能な社会モデルの構築を目指すためには、人口減少社会の意味を理解して取り組む必要があるそうです。

人口減少社会の意味と目指すべき社会モデル

日本は「人口減少・高齢化社会のフロントランナー」と言われていますが、そうなっているのは、長寿ではなく、少子化が主な要因です。

ただし、夫婦がもつ子どもの数は、以前と比べてそれほど変わっているわけではないのだそうです。

つまり、少子化の主な要因は、若い世代の未婚化が進んでいる点にあり、さらにそれを招いているのは、若い世代の生活や雇用が不安定であることなのだということです。

具体的には、年収が300万円より上か下かによって、成婚率に明らかな差があるとのことでした。

(文部科学省ホームページより)

さらに、少子化に関連して話題となる「出生率の低下」に関しては、OECD諸国の状況から、女性の就業率が高い国の方が出生率が高いことがわかっているそうです。

(文部科学省ホームページより)

そこで、広井教授は、「人生前半の社会保障(特に若者支援/最大のものは教育)」の重要性と、世代間配分が不公平となっている現状を指摘され、環境、福祉、経済の3つが調和した「持続可能な福祉社会」への転換の必要を説かれました。

(文部科学省ホームページより)

戦後、日本ではずっと、政府と市場のバランスから「大きな政府」と「小さな政府」のどちらを採るべきかという対立がありました。

しかし、持続可能な福祉社会の実現のためには、政府と市場だけでなく、コミュニティという新たな軸を加えた3軸を考え、それぞれが充実した組み合わせとなるよう考える必要があるとのことです。

(文部科学省ホームページより)
(文部科学省ホームページより)

未来予想と、新学習指導要領の目指すもの


講演終了後、天笠茂座長からは、次のようなコメントがありました。

「未来予想と、新学習指導要領の目指すもの、令和答申がかなり一致していると感じた。
どのような未来になるかの分岐点が、ここ数年のうちにあるという重要な示唆もあった。
学習指導要領を検討するとなると、内容も視野も限定されがちだが、広い視野で多面的多角的にとらえる問題提起としても聞かせていただいた。
答申や学習指導要領では、これから向かう社会として「デジタル社会」を提起しており、そこに向けて着々と準備しているところだが、超長期的という視野から、さらにその先に向かう社会を意識しながら議論していく必要性を感じた。
戦後日本は、もてる資源を東京に集中させて国全体を引き上げていくという手法をとっていたが、次の社会は地方分散社会という提議もあった。
それぞれの学校の在り方と絡めて捉えていくきっかけともなる、新しいご示唆をいただいたと思う。」

また、上智大学の奈須委員からは、

「現在、日本で地方に行こうとすると、自分の地元しか選択肢がないことが多いが、地域創生がうまくいっているところは、外から来た人が活躍できる社会が築けているところである。それができるような社会を作る、担い手である人を作る点については、教育の果たすべき役割が大きい。
地方分散型が成立するためには、「しがらみ」ではない地方の在り方が大事であり、新しい人が入ることで、町自体がどんどん変わっていける風通しの良さが必要となる。変革を実現できるのは、しがらみのない外から来た人である。いまICTを使ってやろうとしているのは、それを学校の中で体験してもらうことであり、トランスフォーマル=変革的な教育ということである」

という指摘がありました。

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今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会(第2回)

▶︎関連リンク

京都大学 人と社会の未来研究院
https://ifohs.kyoto-u.ac.jp/

今後の教育課程、学習指導及び学習評価等の在り方に関する有識者検討会(第2回)会議資料
https://www.mext.go.jp/kaigisiryo/2022/mext_00019.html

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