学級活動で育成を目指す自己指導能力

(2021.9)

(帝京大学教職員センター准教授 / 佐野 匡)

問われる学校の存在意義

2019年度末から、2020年度のスタートにかけて、全国の学校には新型コロナウイルス感染症COVID-19(以下、新型コロナと略記)による過去に経験のない休校の措置がとられた。
多くの学校でこの時期に行われるはずだった卒業関連行事は行われず、卒業式も学校には集まれなかったり、集まったとしても卒業学年だけで保護者や地域の方々も十分に参加できなかったりと、制限の多い中での式となった。

下学年の児童にとっても、卒業に向けた最高学年の姿を見たり、伝統を引き継ごうとする頑張りを感じたりする機会を失った。
休校が明け、登校し始めた6年生は、これまで当然のように行ってきた1年生との交流も行えないまま、それでも、学校の最高学年として取り組まなければならない。私が研究授業で訪問した学校では、児童から「学年が上がった気がしない」「何をすればよいのかがよく分からない」といった声が聞かれた。

一部では学校行事や卒業関連行事が簡素化されたことを行事精選のよい機会と捉えることもあるが、その時期に特別活動が行われなかった影響は小さくはない。今後、学校は児童の様子に注視し、必要な指導を積極的に行っていく必要がある。

休校中も、各学校では工夫をしながら学習の支援が行われていた。
具体的には各家庭と連絡を取り、児童の状況の把握をしたり、動画を配信したり、週の学習予定とともに必要なプリントを配布したりと現場の教員は新しい仕事に追われた。
その中で、教科のプリントでの学習や総合的な学習の時間の調べ学習に加え、新しい学年への希望や目標をもたせるために特別活動の学びについても動画や教材の開発をし、児童に提供していた学校や自治体もあった。

現在、「新しい生活様式」が示され、自らの健康を守るのと同時に、周りの人に感染を広げないようにその実践が必然となっている。
この「新しい生活様式」の中には手洗いやうがいといったこれまでも行われているものがあるほか、身体的距離の確保や日常的なマスク着用など、これまで日常生活の中では行われなかった行動様式も求められている。
また、マスクの着用については、気候や周りの状況によっては外して体温調節を行うなど、求められていることをそのまま遂行するだけでなく、主体的な判断によって行動を決定することも身に付けていく必要がある。
このように、大人も含め経験したことのない状況の中、日常生活を送る上で児童自らが判断し、実行に移す必要がある場面が多数ある。今、児童自らが成長する上で必要な自己指導能力をどのようにして身に付けさせることができるのか、学校の意義が問われるときである。

安全を守り、夢に向かう力を発揮するための自己指導能力

自己指導能力の育成について、平成22年3月に文部科学省から出された「生徒指導提要」第1章第1節の1では、生徒指導の意義として、次のことが示されている。

各学校においては、生徒指導が、教育課程の内外において一人一人の児童生徒の健全な成長を促し、児童生徒自ら現在及び将来における自己実現を図っていくための自己指導能力の育成を目指すという生徒指導の積極的な意義を踏まえ、学校の教育活動全体を通じ、その一層の充実を図っていくことが必要です。

(「「生徒指導提要」第1章第1節より)

自己指導能力は、児童生徒自らがそのときの状況を判断し、適切な行動を積極的に表出したり、あるいは状況に合わせて行動を抑制したりする力である。

自動車の運転で例えるならば、周りの状況を適切に判断しながら、アクセルとブレーキを操作して目的地に向かって進めていくようなものである。
アクセルを踏まなければ目的地に着かないし、危険なときにはブレーキを踏まなければ、これまた目的地に到達する前に事故を起こしてしまう。

新型コロナの終息への予測がつかない中、自らや周りの安全を守りながら、自己実現に向けて実践を続ける自己指導能力の育成に特別活動が果たす役割は大きい。

自己指導能力と特別活動の関連 

生徒指導においてこれまで、自己指導能力を育成する上で生徒指導の3つの機能である「自己存在感」「共感的な人間関係」「自己決定」を教育活動のあらゆる場面で生かすことが必要とされている。
様々な集団活動に自主的、実践的に取り組み、互いのよさや可能性を発揮しながら集団や自己の生活上の課題を解決することを通して学んでいく特別活動は、自己指導能力を身に付ける実践的な場である。

生徒指導の3つの機能と特別活動との関連は、次のように考えられる。

⑴ 自己存在感 

特別活動は、一人一人の児童生徒が自分のよさや頑張りに気付き「自己肯定感」を高めたり、集団での活動の中で互いに協力し合い、認め合う中で、自分が他者の役に立つことができる存在であることを実感することで「自己有用感」を高めたりする。自己理解や集団における役割意識が高まることで「自己存在感」を与えることができる。

⑵ 共感的な人間関係 

特別活動は、実践を通して、多様な他者と人間関係を築き、協働して学級や学校文化の創造に参画する。その中で人間関係形成や社会参画に資する力を育むことを目指すものである。また、この際に形成を目指す人間関係は「よりよい人間関係」である。互いに助け合ったり、よさを認め合って活動したりすることを通して「共感的な人間関係」を形成することができる。

⑶ 自己決定

特別活動は、他者との対話や活動を通してよりよいものに練り上げていく「合意形成」する力や、話合いなど集団での思考を基に目標や課題解決の方法を「意思決定」する場が多く設定される。また、自らが意思決定したことの実現に向け具体的な行動を起こし、粘り強く取り組むことを指導していく。特別活動を通して「自己決定(意思決定)」の場や機会が多く設定され、自ら決めたことをやり遂げる意義の理解や達成感につなげることができる。

このように、自己指導能力の育成には特別活動が深く関わっており、その効果への期待も大きい。学校において、教科学習に充てる時数を確保することに加え、特別活動の設定を適切に行い、自己指導能力を身に付けた児童生徒を育成することで教科学習の質が向上し、結果として教育効果を上げることにつながると考える。

自己指導能力を育む学級活動 

学級活動は児童生徒が一番身近な所属集団である学級を単位として、全学年において行われており、教育課程に年間35時間(小学校1年生は34時間)位置付けられた活動である。
特別活動の基礎となる活動であるとともに、小学校第1学年から毎週活動の機会がある。
児童生徒にとって所属意識の強い集団である学級を、自分たちの力で運営したり、よりよい人間関係を築いたりする。個性や自己の能力を発揮し合いながら生きることの大切さを学ぶ学級活動には、生徒指導と関連を図ることができる機会が多い。

自ら考え、判断し、行動に移す自己指導能力の育成には、児童生徒が自主的・主体的に活動する場が必要である。
学級活動は活動を通して「自主性」と「主体性」を育んでいく。
ここでは、「自主性」を、自分の役割や、やらなければならないことを理解し、人から促されなくても自ら進んで実践・行動できる力、また「主体性」を、課題解決のための方法を考え実践・行動できる力と考えたい。

具体的な活動で考えてみると、学級活動(3)イ「社会参画意識の醸成や働くことの意義の理解」において、当番活動で決まった役割を責任もって果たしたり、学校や学級のルールを守り日常生活を適正に過ごしたりする力は、「自主的」な力と言える。
教室でよく目にする当番表や学校のきまりの表示は、いわば児童生徒が人から言われなくても自分の役割や、集団生活を円滑に行うために定められたルールを確認できる「自主性」を育てるアイテムである。
また、学級の目標を達成するために、学級においてどのような方法で自らの力を発揮するか、その行動を意思決定し、実践を重ねていく力は「主体的」な力と言える。

これらの力が育つことで、新型コロナへの対応において自分や周りの人を守るために手洗いやうがいといった、決められた行動様式を「自主的」に行ったり、高温のときに体温調節をするためにマスクを外す際には人と十分な距離をとり、人のいない方を向くなど「主体的」に解決の方法を考え行動したりすることにつながるのである。

さらに、自己指導能力の育成を目指す生徒指導が、学業指導や適応指導、進路指導、社会性指導、道徳性指導、保健に関する指導、安全に関する指導、余暇指導などに分けて考え、計画されることがある。このことを学級活動の内容との関連を考えると、次のように考えることができる。

学級活動⑵「日常の生活や学習への適応と自己の成長及び健康安全」

ア  基本的な生活習慣の形成〔学業・適応・保健・安全・余暇〕
イ  よりよい人間関係の形成〔適応・社会性・道徳性〕
ウ  心身ともに健康で安全な生活態度の形成〔保健・安全・余暇〕
エ  食育の観点を踏まえた学校給食と望ましい食習慣の形成〔適応・保健〕

学級活動⑶「一人一人のキャリア形成と自己実現」

ア  現在や将来に希望や目標をもって生きる意欲や態度の形成〔学業・進路・社会性・道徳性〕
イ  社会参画意識の醸成や働くことの意義の理解〔学業・進路・社会性・道徳性〕
ウ  主体的な学習態度の形成と学校図書館等の活用〔学業〕

※〔〕内は生徒指導との関連例 

学級活動の内容が、個々の児童の自己指導能力の育成を目指した指導が中心的に行われる場と言える。

効果的な学級活動の実施

これまで述べてきたように、新型コロナの状況は児童にとって学校行事をはじめ、多くの特別活動の場を奪っていることは事実である。
しかし、このような状況の中だからこそ、安全を守り、児童一人一人が自らの力を発揮するための自己指導能力の育成に特別活動がどのように関わっているかを再確認することができる。

その上で休校措置等に伴い十分な時間や環境がない中、効果的に特別活動を実施していくためには、時数として位置付けられた学級活動の時間だけではなく、朝の会や帰りの会も含めて計画を考えていく必要がある。
また、必要に応じて養護教諭や関係機関といった学校内外の教育資源を活用することも有効である。

最後に、新型コロナによりこれまでとは違う教育活動に現場の先生方が向かい合う姿は、児童にとってまさに身近で見る課題解決の姿であろう。
課題を解決するための工夫や情熱に触れることは、これから自己指導能力を身に付けていく児童にとってよい経験である。
困難に立ち向かい教育活動を進めている、全ての現場の先生方に敬意を表したい。


※本記事は月刊誌「道徳と特別活動」2020年9月号(特集:児童の自己指導能力を高める学級活動 ― 特別活動 基本と応用vol.2 ―)からの転載です。

▶︎「道徳と特別活動」について詳しくはこちらをご覧ください。
https://www.fujisan.co.jp/product/1281702462/

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