これからの校務支援システムの在り方とは?
(2022.6)
令和4年5月24日に行われた「GIGAスクール構想の下での校務の情報化の在り方に関する専門家会議(第4回)」において、ICT CONNECT21 校務系ー学習系情報連携SWGリーダーを務める藤村 裕一 委員(鳴門教育大学大学院 学校教育研究科 教授 教員養成DX推進機構長)より「校務支援システムの変遷・功績とGIGAスクール環境に対応した今後の校務支援システムのあり方」と題する発表が行われました。
校務情報化の歴史的変遷を踏まえ、令和の日本型教育の理念「一人一人の子供を主語にする学校教育」への質的転換を、現在大きな課題となっている「学校における働き方改革」と両立させていくための提言で、続いて行われた意見交換でも、非常に活発な話合いが展開されました。
そこで今回は、校務支援システムの在り方につき、現在行われている議論と、これからの方向性をご紹介します!
校務情報化の変遷
表計算ソフト時代
1980年代頃から表計算ソフト等を活用した校務ツールを自作し利用する動きが始まり、1990年代からはテストメーカー等が制作した成績処理システム等、専門家の作った単機能の校務支援システムが使われるようになりました。
これらは現在も活用されており、現場のニーズに応じ高機能・高付加価値化しています。各児童生徒ごとの習得状況を分析して通知表や保護者に向けた説明資料が作成できる機能や、新学習指導要領の趣旨を踏まえ、カリキュラムマネージメントを支援するツールが充実しているものも注目されています。
統合型校務支援システムの登場
教務系、保健系、学籍系、学校事務系などを統合的に扱うことのできる「統合型校務支援システム」が登場するのは、2000年代に入ってからです。
当初は学校サーバ型、学校単位での導入でしたが、紙に手書きしたものを手入力しなくてはいけなかったほか、不正アクセスや情報漏えいといった問題が起こるなど、セキュリティ上の課題も少なくありませんでした。
そのため、インターネットと機微情報の分離を徹底することが必要であると考えられるようになり、各教育委員会・学校が情報セキュリティポリシーの作成や見直しを行う際の参考として、2017年に「教育情報セキュリティポリシーに関するガイドライン」が策定されました。
これは、技術の進歩や新たな課題に対応するため、適宜見直していくものとされており、既に2回の改訂が行われています。
クラウド活用が始まる
2018(平成30)年になると、文部科学省より「統合型校務支援システムの導入のための手引き」が公開されました。
この手引きでは、統合型校務支援システムを「教員の長時間勤務を解消し、教育の質の維持向上を図るための具体的な解決策の1つ」と位置付けています。
そして、統合型校務支援システム導入にあたり各学校が直面する課題へ対応できるよう、2017(平成29)年度に文部科学省が実施した「校務における ICT活用促進事業」における調査研究結果を基に、全国の好事例を紹介するとともに、統合型校務支援システムの共同調達・共同利用のための具体的な手順を示しています。
現在は、教育委員会や自治体ごとのサーバで、統合型校務支援システムを運用するのが主流となりつつあります。
校務支援システムの現状と課題
令和の日本型学校教育
2021(令和3)年1月に、中央教育審議会答申「「令和の日本型学校教育」の構築を目指して ~全ての子供たちの可能性を引き出す個別最適な学びと、協働的な学びの実現~ 」が発表されました。
この答申では、社会の変化が加速度を増し、複雑で予測困難となってきている中、子供たちの資質・能力を確実に育成するために新学習指導要領の着実な実施が重要であること。そのためには、ICT の活用と少人数でのきめ細かい指導体制の整備により「個別最適な学び」と「協働的な学び」とを一体的に充実することが必要であることをが指摘されています。
そして、向かうべき学校教育の姿として「一人一人の子供を主語にする学校教育」を提言し、この改革の方向性を踏まえた各論として、各学校段階における子供の学びの姿や教職員の姿、それを支える環境についての具体的な方策が盛り込まれています。
克服すべき課題は
答申は、令和の日本型学校教育を実現するために克服すべき重要な課題の1つとして、「教師の長時間勤務による疲弊や教員採用倍率の低下、教師不足の深刻化」を挙げています。
そのため、学校における働き方改革が令和の日本型学校教育を実現するため躊躇なく進めなくてはならないことも書き込まれています。
一方、学校における働き方改革は「特効薬のない総力戦」であるため、国・教育委員会・学校それぞれの立場において取組を着実に推進し、教師が教師でなければできないことに全力投球できる環境整備が必要です。
文部科学省では、2016(平成28)年度から毎年、各自治体における取組状況を調査していますが、2021(令和3)年度の調査によると、小学校における「時間外勤務月45時間以下」の割合は、前年に比べ約2~16%程度増加しています。
しかし、4割前後の先生方が月に45時間以上の時間外勤務を行っており、長時間勤務が解消されたとは言えない状況が続いています。
また、GIGAスクール構想の下での校務の情報化の在り方に関する専門家会議 第1回(2021年12月23日開催)にて発表された全国公立小中学校事務職員研究会の調査でも、「負担軽減は進んでいない」との回答が、全体の1/3を占めていました。
2021(令和3)年度の調査によると、校務支援システム等を活用した負担軽減に取り組んでいるのは、市区町村では、まだ77.2%に留まっています。
まずは、全ての学校に必要な統合型校務支援システム等が整備され、児童生徒への個別最適な支援を可能にしながら、学校経営や学校における働き方の改善が実現することが期待されます。
「次世代」の校務支援システムは
次世代学校支援モデル構築事業
2017(平成29)年から2019(令和1)年にかけて、文部科学省では「次世代学校支援モデル構築事業」が行われました。
これは、エビデンスに基づいた学校教育の改善に向けた実証事業の一環で、統合型校務支援システム等で扱う校務に関する情報と、学習履歴や学習記録、学習成果物等の学習系データと有効につなげることで学びを可視化し、学校教育の質向上を目指すことができるようにするためのものです。
具体的には、学校におけるデータ活用の在り方や、学習記録のデータ化の方法、システム要件(情報セキュリティ対策を含む)に関する実証研究が行われました。
また、本事業は、並行して行われた総務省の「スマートスクールプラットフォーム実証事業」との連携事業でした。
総務省のスマートスクールプラットフォーム実証事業は、フューチャースクール推進事業(2010〜2013年度)、先導的教育 システム実証事業(2014〜2016)に続く、総務省の教育分野でのICT利活用のための推進施策です。
クラウド活用を前提として教職員の利用する「校務系システム」と、児童生徒も利用する「授業・学習系システム」間の、安全で効果的・効率的なデータ連携方法について実証を行うことを目的としており、福島県新地町、東京都渋谷区、大阪府大阪市、奈良県奈良市、愛媛県西条市の5地域で取組が行われました。
事業の成果として、2019(令和1)年度に、データ受け渡しに関する技術仕様「スマートスクール・プラットフォーム」が発表されました。
今後は、これらの研究が目指してきた校務系と学習系の情報を連携させる取組が本格化していきます。
これにより、たとえば、心理や健康のデータと成績データの照合など、これまで学習では使われていなかったデータを学習状況の把握にも利用できるようになり、より意味のある指導が可能になることが期待できるとされています。
今後の校務支援システムの在り方は
以上のような現状を受け、これからの校務支援システムの在り方を考えるに当たっては、以下の4つの論点につき、さらなる検討が求められます。
① 学校における働き方改革の推進
- デジタル化による校務効率化
- 情報共有による業務分担化
- リモートワーク対応によるワークライフバランスの改善
② セキュリティ対策
- オンプレミスからクラウドに移行する過程でのセキュリティ対策
- 大規模災害時にも学びや業務を止めない「レジリエントスクール」の実現に向け、ゼロトラストセキュリティにより情報漏洩を根絶する。
③ 校務系・学習系の情報連携の標準仕様の策定
- 学習eポータル標準モデルの校務分野への拡張
④ 校務支援システムで扱う情報の見直し
- 学習系システムを含む各データの保存場所と、必要なセキュリティレベルの再検討
- 低コストで部分カスタマイズや共同利用を可能とするような業務と帳票の標準化推進
校務支援システムの考え方には、GIGA端末が入ったところでどうするかという発想が必要な面があるとされています。デジタル化以前の業務の進め方を踏襲しているために、かえって不便になっていることもあるとの声もあり、管理職や教育委員会でのマネジメントが、これまで以上に重要となってきます。
各学校で校務の見直しを行う際の参考として、文部科学省では、ポータルサイトStuDX Styleにて様々な事例を紹介しています。