学校行事や児童会活動、クラブ活動を通して児童に育成する資質・能力─「多様な集団活動」を通して─

(2021.8)

元文部科学省初等中等教育局視学官 宮川八岐

令和元年度末から令和2年度当初において、新型コロナウイルス感染予防への緊急避難的対応から全国の学校は一斉に休校を余儀なくされ、学校本来の機能を全く果たすことができない状態が3か月以上も続いてしまった。
ようやく6月中盤になって分散登校や通常授業が行われるようになるものの、地域や学校によって、教育課程への取組や学校運営において大きな違いが見られた。

教科の授業時数確保が学校運営の優先課題となり、特別活動への取組がおろそかにされ、特に学校行事など異年齢集団による実践活動や交流活動が極端に削減されるといった状況が続いてきた。

こうした状況は、各学校の創意工夫により、徐々に復活の兆しが見え始めているようでもある。
しかし、全校または学年以上の大きな規模で行われる集団活動の学校行事や異年齢集団活動を特質とする児童会活動、クラブ活動などは、なかなか完全復活というわけにいかないようである。

学校行事や児童会活動、クラブ活動の教育課程上の特質

学校教育は再開されたものの、それまで永きにわたって外出自粛が要請され、学級の友達や同学年、異学年の児童同士の実践活動や交流などがなかったことから、特に高学年の児童に無気力状態が見られたと言われる。
活動が制約されたことで、改めて新型コロナウイルス感染症流行以前の特別活動(多様な集団活動)の意義(特質)を実感しているとの先生方の声が多く聞かれた。

①多様な集団活動による豊かな人間関係を学ぶ機会

学級以外の多様な集団に所属し、様々な人間関係による集団活動を通して、学級では得られない豊かな学びをし、実践的態度を向上させていく。

②創意工夫力・問題解決力の広がり

学級活動での創意工夫や、創造的な問題解決の経験を生かして学校行事や児童会活動などに取り組む中で、より確かで豊かな実践力を身に付けていく。

③役割貢献の喜び、意欲の向上

多様な集団に所属し、役割(リーダーシップなど)を果たして自己有用感や達成感を得て、学校社会への帰属意識を高めるとともに、さらなる実践活動への意欲の向上が期待できる。

学校行事や児童会活動、クラブ活動で育成する資質・能力とその指導

「人間関係形成」「社会参画」「自己実現」が現行の学習指導要領における特別活動の3つの中核的指導目標である。学校行事等の内容は、学級活動の指導の成果等をより総合的、発展的な実現を目指す教育活動である。

⑴学校行事で目指す資質・能力と指導

前述したように、新型コロナウイルス感染症対応の緊急事態宣言下において、特に儀式的行事である卒業式や入学式などの学校行事が、ほとんどの学校が以前のような形で実施できなかったことが問題になった。

その儀式的行事で育成を目指す資質・能力について、『小学校学習指導要領解説 特別活動編』(以下、解説と略記)には、次のように示されている。

○儀式的行事の意義や、その場にふさわしい参加の仕方について理解し、厳粛な場におけるマナー等の規律、気品のある行動の仕方などを身に付けるようにする。

○新しい生活への希望や意欲につなげるように考え、集団の場において規則正しく行動することができるようにする。

○厳粛で清新な気分を味わい、行事を節目として希望や意欲をもってこれからの生活に臨もうとする態度を養う。

令和元年度末の教科等の学習内容や評価をどうするかの問題もあったが、内容等に応じて個別に家庭等との連携などで工夫できたものの、多くの学校では、学校行事の特質を生かした儀式的行事の適切な指導はできなかった。
しかし、困難な状況下においても教育委員会や学校等の工夫により、「卒業式」や「入学式」の意義を踏まえた取組も少なからず見られた。

例えば、時間短縮や式場の設定、参加者を絞るなどの工夫をし、国歌や校歌は曲を流し、教育委員会の告示は式次第に入れるなどである。また、規模の大きな学校では、「始業式」などは複数回に分けて行うところもあった。単に削減するのではなく最低限の儀式的行事ならではの指導は押さえるということである。

健康安全・体育的行事として行われる「運動会」への取組も様々で、工夫して実施したという学校でも、例えば、綱引きで密を避けるため綱を持つ児童の間隔を空けて実施してはいるが、周りで応援する児童は密になっていたという事例も見られた。整列や隊列のつくり方は、「規律ある集団行動の仕方を身に付ける」という指導の一環として体育の授業や体育的行事で徹底して指導しなければならない資質・能力の一つである。

遠足・集団宿泊的行事の指導の充実が求められている中で、安易に修学旅行や自然教室が削減されているようであるが、移動の仕方や宿泊先を検討して規模は縮小しながらも工夫しつつ実施し成果を上げている学校もある。

5種類の学校行事のそれぞれで実施する行事について、育成を目指す資質・能力を重点化して豊かな体験活動を工夫して実施したいものである。

(2)児童会活動で目指す資質・能力と指導

児童会活動で育成を目指す資質・能力について、解説には次のように示されている。

○〈前略〉異年齢の児童と協力して児童会活動に取り組むことや、児童会の一員として役割を果たすことが大切であることを理解し、計画や運営の仕方などを身に付けるようにする。

○代表委員会や委員会活動、児童会集会活動などにおいて、学校生活の充実と向上のための課題や発意・発想を生かした活動の計画、児童会の一員として自分の果たすべき役割などについて考え、話し合い、決めたことに協力して取り組むことができるようにする。

○学年や学級が異なる児童と協力し、自他のよさに気付いたり、自分のよさを生かして活動に取り組んだりして、児童会活動の計画や運営に主体的に取り組み、学校生活の充実と向上を図ろうとする態度を養う。 

(小学校学習指導要領 特別活動「解説」)

学校行事と同様に、全校的規模で進められる集団活動である児童会活動も大きく制約されてきた。代表委員会や委員会活動、全校児童集会などがなくなり、高学年の児童の活躍の場がなくなった。

しかし、徐々に三密に留意しながら学校の実態に応じた取組の工夫がなされるようになってきている。

例えば、規模の大きな学校では代表委員会をウェブ会議で実施している例がある。児童会計画委員(役員)が代表委員会を進行する教室と、六つの教室に分かれている委員会代表や学級代表とをウェブでつなぎ、話合いを行うのである。

各委員会活動も「三密に気を付けよう」を合言葉に話合いや計画の実現に向けて活動していて、これまでになく児童会室の活用や校内の児童会掲示板の活用も活発になっているという。

全校児童集会(お知らせ集会)は校内放送で行っている学校が多く、小規模校では以前までと変わらず全校児童が一堂に会して集会活動を行っている。「何もできない」わけではないのである。

高学年の児童が「全校集団の運営を担う代表者」という意識で活動し、「全校児童会の一員としての自覚と役割貢献」の実践的態度の育成を大切にする学校の児童は、人間関係が円滑で自己有用感や学校生活の充実・向上に取り組もうとする意欲や意識が高い。そうした態度や意欲は、学級活動にも生かされる。

(3)クラブ活動で目指す資質・能力と指導

クラブ活動で育成を目指す資質・能力について、解説には次のように示されている。

○クラブ活動を充実させるための諸問題に気付き、発意・発想を生かした活動の計画や一人一人のよさを生かし合えるような組織、クラブの一員として自分の果たすべき役割などについて考え、話し合い、決めたことに協力して取り組むことができるようにする。

○創意工夫を生かした活動の進め方や、クラブの一員として自分の果たすべき役割などについて考え、学級や学年が異なる児童と共に楽しく協力して活動に取り組んだり、よりよい人間関係を形成したりすることができる〈後略〉。

クラブ活動は、児童会活動と同様、自発的、自治的な活動としての特質をもつ、主として4年生以上の同好の児童による集団活動である。児童が自らの興味・関心からクラブを選択し、所属を同じくする学級や学年が異なる者同士が共に協力し合って計画・運営し、全員が楽しくなるように話し合って創意工夫を追求する個性伸長の実践活動である。

学習指導要領の平成29・30年改訂に向け検討を進めていた中央教育審議会特別活動ワーキンググループは、
「(中学校等での)部活動など自主的な活動を選択したり、進路や職業を選択したりすることや、地域・社会におけるサークルや同好会など同好の者による自主的な集団における活動につながってくる」
と述べるとともに、
「一人一人が目標をもって参加したりすることで資質・能力の育成につながっていく活動である。そうした活動となるよう年間を通して適切な時間を確保することが望まれる」
を審議のまとめとしている。

学校週5日制完全実施、学力向上への対応からの偏った学校運営や新型コロナウイルス感染症対応を理由にして、児童にとっての「適切な時間」を確保していない学校が全国的に多いと言われる。

一方で、今年度の学校再開の際に、これまでなかった新型コロナウイルス感染症対応のクラブ(例えば、「折り紙クラブ」、「イラストクラブ」など)を新設するとともに、活動の内容や活動形態を児童と教師で工夫し、継続的に楽しさを追求できるよう活動時間を月二回以上確保するなど改善充実を図っている学校がある。

おわりに ―「学びの保障」等の提言などを踏まえた教育課程の実現を― 

学校行事や児童会活動・クラブ活動の豊かな経験が学級活動や教科等の学習に好ましい影響を与えることは周知されている。

文部科学省は、令和2年5月15日に「新型コロナウイルス感染症の影響を踏まえた学校教育活動等の実施における『学びの保障』の方向性等について(通知)」において、「学校行事等も含めた学校教育ならではの学びを大事にすること」を求めている。
また、同7月17日の「学校の授業における学習活動の重点化に係る留意事項等について(第2報)(通知)」でも、「児童会活動、クラブ活動、学校行事についても〈中略〉感染症対策を講じながら児童や学校の実態に応じて創意工夫して実施すること」を求めている。

今年度の学校評価に当たっては、学校行事等の特質(教育的意義)や、育成する資質・能力の再確認と、他自治体の取組の情報を収集して、新年度のより確かな学習指導要領の趣旨の実現に取り組むことが学校経営の課題である。


※本記事は月刊誌「道徳と特別活動」2020年9月号(特集:新しい生活様式における学校行事・児童会活動・クラブ活動 ― 距離をとって、心を密に ―)からの転載です。

▶︎「道徳と特別活動」について詳しくはこちらをご覧ください。
https://www.fujisan.co.jp/product/1281702462/

PAGE TOP