日本式教育が世界に! エジプトから来た小学校の先生が“日本の小学校”を視察
(2023.10)
エジプト日本教育パートナーシップ(EJEP)に基づくエジプトの小学校教員のためのグループ研修プログラムが、2023年9月18日から4週間の日程で行われました。
参加したのはエジプトの「エジプシャン・ジャパニーズ・スクール(EJS)」で教師として働く40名。
福井大学のスタッフが帯同し、日本の小学校のシステムや子供たちの生活リズムや学習環境などについて説明を加えながら行われました。
「エジプト・日本教育パートナーシップ」による日本式教育の視察
この研修は、2016年2月に日本とエジプトの間に結ばれた「エジプト・日本教育パートナーシップ(EJEP)」によって定期的に行われているもので、今回が8回目となります。
エジプトでは、2019年に日本の学校様式を取り入れた「エジプシャン・ジャパニーズ・スクール(EJS)」が開校するなど日本式教育への注目が高まっており、その影響はエジプト全土で広がりを見せています。
特に社会生活を送る上で基盤となる力を養う「特別活動」は、「TOKKATSU」としてエジプトの文化に合わせて展開されており、子供たちの「人間関係形成」「社会参画」「自己実現」にかかわる資質・能力の育成に大きく寄与しています。
視察初日の19日は、東京都多摩市立貝取小学校(鈴木純一郎校長)にて、子供たちの学校生活の様子を視察しました。
授業や学校設備の設備まで「日本の学校のリアル」を視察
当日、研修メンバーは少人数グループに分かれ、授業の様子や給食の様子を視察。教科の授業はもちろん、特別活動や縦割り班交流などの様子にも強い関心が寄せられ、「少人数で授業をしているのはなぜか」「この掲示物はどういったものか」など、熱心な質問が相次ぎました。
さらに、保健室や理科室などの学校環境が紹介されると、保健室の役割について養護教諭に詳しい説明を求めるなど、子供が安心して生活できる環境づくりにも注目していました。
子供たちもアラビア語で視察団を歓迎
3時間目には4年生による歓迎会が行われ、エジプトの民族衣装に身を包んだ子供たちがエジプト国旗をもって研修メンバーを迎えました。
子供たちはエジプト国歌など全3曲の歌唱を披露。研修メンバーはエジプト国歌のアラビア語での歌唱や、準備期間が2週間ほどだったことに驚いたようでした。
歓迎会後には「この学校では、音楽の指導に力を入れているのですか」「我々外国人の前で緊張せずに生き生きと歌えたのは、先生との信頼関係があるからこそと感じた」と、感心の声が多くあがりました。
学校全体で視察団をお迎え 校内の細部にまで友好のしるし
この日の校舎内には、工夫を凝らした掲示物がそこかしこにあり、視察団を迎える温かい雰囲気がありました。学校のキャラクター「かいどりっこ」は、エジプト国旗を持って古代エジプトを思わせるファラオの被り物をして視察団を迎えました。
校内にはアラビア語のあいさつが書かれたポスターが掲示されており、校舎中のあちこちで「アッサラーム・アライクム!(こんにちは)」「マッサラーマ!(またね)」という子供たちの声が響いていました。
鈴木校長は「本校は5月にもエジプトの視察団を迎えている。子供たちにとって親しみを感じる国の一つとなっているのではないか」と話しました。
鈴木校長自身が、2020~2022年度の3年間、スーパーバイザーとしてエジプトのEJSで3年間現地の教師をサポートしてきており、日本とエジプト両方の現場を知る存在。
「こうした交流が、子供たちの海外への興味関心を高めることにつながっている。時差の問題もあるが、今後は両国の子供たちがオンラインツールなどで交流する機会なども設けられたら」
と、今後の意欲を語られました。
視察団は9月19,20日と貝取小学校を視察したのち、福井県へ移動し、福井大学での研修や同大学教育学部附属義務教育学校の視察を行いました。
2019年からエジプト高等教育省より本研修を委託されている福井大学の柳沢昌一教授は、
「今回来日した教師のほとんどが初めての日本視察であるが、2019年から300人以上のエジプト人教師が来日し、研修を重ねている。
彼らはそれぞれが見てきたものを本国に持ち帰り、共有して指導改善に生かしているため、たとえ個々は初来日であったとしても、過去の情報や知識を基にレベルの高い学びを積み重ねている。
今回の研修も、エジプトの教育全体に寄与するようなものであってほしい」
と期待を寄せました。
5年間でエジプトの教育が大きく変わった
〜文化に合わせて進化していく「日本式教育」〜
この5年間でエジプトの教育観は大きく変化したといいます。
日本式教育導入以前は「教師の仕事は子供に教科を教える」ことであり、それ以外のことは学校の役割ではないという考え方が一般的でした。
しかし、現在では、学力だけでなく、子供の非認知能力の育成や心の健康、教師と子供のつながりにも注目が集まるようになっています。
今回が5年ぶり2回目の日本視察だというカリーマさんは
「最初は何もわからないところからのスタートだった」
と振り返りました。
「この5年間の間に8回にわたって多くの教師が日本で研修を重ねてきた。
教師が日本式教育や特別活動の考え方をしっかりと理解していくことで、エジプト全土に広まり、浸透していった。
そうした中で、徐々にエジプトの文化や宗教に合わせた形で『特別活動(TOKKATSU)』という枠組みを活用できるようになってきた。
5年前には子供たちの実態に合わないような形で行われることもあったことを考えると、大きな進歩だ。
今回の研修では、特別活動のさらに詳細な部分、係活動や委員会などの細かい部分を深めていきたい。
授業をしっかり視察し、自分たちの授業研究に生かしていきたい」
日本式教育は日本を飛び出し、エジプトの文化や国民性に合わせて独自の進化を遂げています。
今後、必ずしも日本が教える側ではなく、両国間で協力し合いながら、それぞれがよりよい学校づくりを進めていくことが期待されています。