―スタートとゴールがぶれないように―

東京都中野区立令和小学校 主任教諭
古谷 直大
授業実践 第五学年
はじめに
学習指導要領において道徳の内容項目は第一・二学年が十九項目、第三・四学年が二十項目、第五・六学年が二十二項目と学年が上がるに従い増加していく。道徳の授業時数は年間三十五時間(第一学年は三十四時間)であるため、これらの項目を計画的に指導することが求められる。しかし、B[友情、信頼]の内容項目について授業をしようと思っていたのにB[親切、思いやり]の授業になってしまった。D[感動、畏敬の念]の内容項目について授業をしていたのに、児童から様々な内容項目に関する発言があり、結局どの内容項目についても深まらなかった。ということがある。教材によっては一つの内容項目だけでなく、様々な内容項目について学習できるものがある。複数の内容項目が含まれる教材を使うときは特に、一貫性・整合性をもたせた授業を行い、スタートとゴールがぶれないようにすることが大切であると考えている。そこで今回は「最後のおくり物」の実践事例をもとに、実際の授業の様子を紹介していく。
授業実践 第五学年
ジョルジュじいさんの思いに気付いたときのロベーヌの気持ちを考えることを通して、誰に対しても思いやりの心をもち、相手のことを考えて親切にしようとする心情を育てる。
教材名 「最後のおくり物」(出典:『新しい道徳5』東京書籍)
⑴主題設定の理由(指導観)
①ねらいとする道徳的価値について
人が人と共に生活していく上で、自分のことばかりを考えたり、自分の思いだけを主張したりしていては望ましい人間関係を構築することはできない。相手との意見の相違などを認め、互いが相手に対して思いやりの心をもって親切に接することが重要である。思いやりの心は、思いやる人間が相手のことを主体的に考えることで生まれてくる。親切な行動をするためには、親切な行動をしようとしている人間が、自分の行為は相手の立場を考えて行っていることであるのか客観的に考えることが大切である。本授業では、どんな相手に対しても思いやりの心をもち、相手のことを考えて親切な行動をしようとする心情を育んでいきたい。
②児童の実態
本学級の多くの児童は消しごむや鉛筆を忘れた友達に対して進んで声を掛けたり、委員会の仕事などで学級にいない児童のために行動したりする姿が見られる。親切な行動をしている児童は「友達が困っているからやっている」「手伝ったほうがよいと思う」など、見返りを求めたり「ありがとう」と言われたりするためにその行動をするのではなく、相手の気持ちを考えて行動している。また、児童の実態をより正確に把握するために次のアンケートを実施した。
【アンケート】
設問❶:相手のことを考えて行動したことはありますか。
設問❷:❶であると答えた人はそのことについて詳しく教えてください。
アンケートの結果から、本学級の児童の実態について二つのことが分かった。
❶相手のことを考えて行動した児童が多く、そのような行動をすることに抵抗がないこと。
❷行動の対象は家族や友達など、身近な人に対して行うことが多いこと。
③教材について
劇団の俳優になることを目指すロベーヌは、貧しさから養成所に入ることができず、窓越しに練習の様子を観て学んでいた。守衛のジョルジュじいさんはその熱心な様子に感心し、窓越しから練習を見ることを許していた。そんなロベーヌに、毎月、差出人の分からない手紙とお金が届くようになり、そのお金を使って養成所で学び始めることになった。ある日、こっそりとお金を届けていたジョルジュじいさんがロベーヌの家の前で倒れ、そのまま息を引き取ってしまう。ロベーヌはジョルジュじいさんが手紙とお金を届けてくれたこと知り涙を流し、何かを決意したかのように遠くに視線をうつす。
ジョルジュじいさんはロベーヌの置かれた立場を考え、劇団の俳優になるというロベーヌの夢を実現させるためにお金を届け続けた。ジョルジュじいさんの行動と最後の手紙に込められた思いや、ジョルジュじいさんの思いに気付いたロベーヌの気持ちを通して、どのような相手に対しても思いやりの心をもち、相手のことを考えて行動をしようとする心情を育んでいきたい。
本教材は発問構成を工夫することでB[親切、思いやり]、B[感謝]、D[感動、畏敬の念]など複数の内容項目で授業ができると考えられる。今回の実践ではB[親切、思いやり]に焦点を当てているため、B[親切、思いやり]に関する指導観をより明確にした。また、児童の実態をより詳しく把握するためにアンケートを実施した。さらに、教材のどの部分が本時のねらいに直結するのか教材分析表(資料1)を活用しながら確認した。このように本時の主題名、ねらいと共に指導観を明確にすることが重要である。
| 場面 | ロベーヌの気持ち | 関連する内容項目 | ○考えられる発問 ・発問の意図 |
|---|---|---|---|
| ⑭手紙を読み、あふれ出る涙で文字がかすむロベーヌ。 | ・おじいさんありがとう。 ・このご恩は忘れません。 ・ぼくのことをこんなに大切に思ってくれていたんだ。 ・これからも練習を頑張ります。 ・おじいさんとの思い出忘れません。 | B感謝 B親切、思いやり D感動、畏敬の念 | ○涙を流しながら手紙を読むロベーヌはどのような気持ちだったでしょう。 ・ロベーヌのことを考えて行動したジョルジュじいさんの気持ちに気付き、それにこたえようとする気持ちをおさえる。 |
⑵授業記録と指導の工夫
①導入
T アンケート結果を見て、どのようなことを思いましたか。
C 相手の人を考えている人が多い。
C アンケートを見て、自分も相手の人を考えて行動したことを思い出した。
(「相手のことを考えて」と板書して範読)
②展開前段
T お金が届かなくなったときロベーヌはどのような気持ちだったでしょう。(第一発問)
C どうして急にお金が届かなくなってしまったのだろう。
C このままでは今までの努力が無駄になってしまう。
T ジョルジュじいさんはどのような思いでロベーヌにお金を届けていたのでしょう。(第二発問)
C ロベーヌ頑張れ。夢を叶えておくれ。
C 最後まであきらめるんじゃないぞ。
C 一生懸命頑張る姿に心打たれた。何とかしてあげたい。
T ジョルジュじいさんからの最後の手紙を読んだときロベーヌはどのようなことを思ったでしょう。(中心発問)
C 僕のために無理をさせてしまいました。おじいさんの優しさに気付かずにごめんなさい。
C おじいさんの気持ちを無駄にはせず最後まで努力します。絶対に合格します。
C 自分だけの夢ではなくなりました。おじいさんと一緒のつもりで頑張ります。
B[親切、思いやり]について深く考えることができるようにするための発問構成を考えた。第二発問ではジョルジュじいさんがロベーヌのことを考えて行動していたことをおさえた。中心発問ではジョルジュじいさんの行動が自分(ロベーヌ)を考えた行動であり、ロベーヌのことを考えていたことが根底にあることをおさえた。中心発問ではB[親切、思いやり]以外の道徳的価値に関する発言も見られた。本時の授業の内容項目から外れたものであっても児童の発言はどれも尊重することが大事である。授業の詳細は学習指導過程、当日の板書(資料2)を参考にしていただきたい。

③展開後段
T 今日の学習を通してどのようなことを感じたり考えたりしましたか。これまでの生活も関連させて書きましょう。(以下、児童のワークシートの記述)
C これまで弟のお世話をしたり、エレベーターに乗ってきた人に「何階ですか」と聞いたりしたことがあります。ジョルジュじいさんのようなことはしたことがありませんが、これまでと同じように相手に思いやりの気持ちをもって行動したいです。
C 相手のために行動するには相手に対して優しい気持ちをもたないとできないと思います。人に優しくすることで自分も相手もうれしい気持ちになれるので、これからの生活で意識できるといいなと感じました。
展開後段は教材を通して考えたことを自分の生活に落とし込んで考える場面である。児童の記述を見るとB[親切、思いやり]に関して自分を見つめ、振り返ることができていることが分かる。
おわりに
本授業では内容項目B[親切、思いやり]と設定した。授業前の計画の段階から、一貫性・整合性をもたせることが重要である。そうすることで児童から本時の内容項目以外の発言(B[感謝]やD[感動、畏敬の念])が出てきたときも、その方向に授業が流されることなく、スタートからゴールまでぶれない授業を行うことができる。週一回の道徳の学習で、児童一人一人が自分自身の生活についてしっかりと見つめ、振り返ることができる時間になるようにこれからも努めていきたい。





「相手のことを考えて」 B[親切、思いやり]