―道徳授業の充実を目指して―
東京都調布市立北ノ台小学校 主任教諭
富田 恭章
授業実践 第五学年
はじめに
「道徳科の授業は楽しい」と話す児童にその理由を尋ねると、「たくさんの考えを聞くことができるから」「友達の考えを聞くことで、自分の考え方に広がりが出るから」という答えが返ってくることが多い。私自身も、「児童の様々な考えに触れることができる」という点に道徳科授業の大きな魅力を感じている。また、授業が充実することで、友達の発言や考え方を大切にしようとする学び方が身に付き、それが他教科等の授業にも波及し、学級づくりの要になっていくと考えている。週に一時間という貴重な時間だからこそ、年度当初には、道徳科の授業はどのような時間で、どのような学び方をしていくことが大切なのか、児童とともに丁寧に確認していきたい。本稿では道徳科オリエンテーションを含めた第一回の道徳科授業の実践について紹介する。
事前準備
⑴道徳科オリエンテーション
道徳科授業での学び方について児童と共通理解を図るためには、教師自身が一年間を見通して大切にしていきたいことを整理しておく必要がある。私は、教育活動全体を通して、自分の考えをためらわずに伝えられるようになってほしいという願いをもって指導している。特に道徳科の授業では、様々な考え方・感じ方に触れる楽しさを味わってほしいと思う。そこで、どの学年・学級を受けもっても、この二点については初回の授業で必ず話すようにしている。伝えるときの文言や方法については、児童の発達の段階や実態に応じて考えている。今回は、プレゼンテーションソフトを使って資料1のようにまとめた。これは、学級の掲示物としていつでも見られるようにしておく。

資料1 オリエンテーション資料
⑵初回の授業構想
学校の年間指導計画に基づき、初回の授業で扱う教材を決定し、準備を進めていく。今回は、B[友情、信頼]で「友のしょうぞう画」を扱うことにした。詳しい学習指導過程については、後ほど紹介する。
⑶ワークシート集と振り返りシート
道徳科の授業では、ワークシートを活用することが多い。今回の授業でも、自己を振り返る場面でワークシートを活用しようと計画した。児童がじっくりと考え、一生懸命に記述したワークシート。一枚ずつ返却して、すぐに無くしてしまってはもったいない。ポートフォリオとして貼りためれば、児童自身が見返し、自分の学びの足跡をいつでも振り返ることができるようになる。そこで、B4サイズの色画用紙を二つ折りにしたものをワークシート集の台紙として準備し、初回の授業で配布できるようにしておく。
また、裏表紙には「振り返りシート」を作成して印刷する。次の三つの項目と自由記述欄を一覧表で示し、毎時間、授業の振り返りを児童が記すことができるようにしたものである。
・自分の考えをもった。
・友達の考えや発言から学んだ。
・自分の経験を振り返ったり、これからの自分の生き方について考えたりした。
振り返りを行う際には、「今回の授業で、自分が一番よく頑張ったと思うもの」として一つに丸を付けるように指示する。大くくりなまとまりで、児童の学習状況や成長の様子を捉えるための一つの材料になると考えている。
授業実践 第五学年
友達の大切さやかけがえのなさを理解し、友達を信頼して友情を深めようとする心情を育てる。
教材名 「友のしょうぞう画」(出典「道徳5 きみがいちばんひかるとき」光村図書)
⑴主題設定の理由
①ねらいとする道徳的価値について
友達は、家族以外で特に深い関わりをもつ、私たちが豊かに生きる上で大切な存在である。その重要性は成長とともに大きくなっていく。確かな友情は、友達との共通の体験や日々の交流などを通して育まれるものである。また、友達との関わりの中で、よさを認め合ったり励まし合ったり、時には互いの気持ちに折り合いが付くまで話し合ったりする経験の積み重ねが、よりよい成長に大きな影響を与えていくものだと考える。
この時期の児童は、仲よく遊ぶことだけではなく、より親密で信頼し合える友達関係を求めるようになってくる。互いのよさを認め合うことや目標に向かって切磋琢磨する経験を重ねることで、友情をより一層深めていく発達の段階である。しかし、友達との間に些さ細さいなことでいさかいを起こしたり、相手からの思いやりばかりを期待したりして、友達関係を台無しにしてしまうこともある。
このような状況を乗り越えながら友情を深めていくためには、互いを信頼しながら友情を育むことのよさを実感できるようにすることが必要である。具体的には、友達と助け合ったり励まし合ったりすることで生まれる心の温かさや、相手の置かれている状況を理解しながら友達と関わっていくことの大切さについて考えさせたい。そして、友達をより一層かけがえのないものとして認識できるようにすることで、友達を信頼して友情を深めようとする心情を育んでいきたい。
②児童の実態について
本学級の児童は、休み時間に声を掛け合って遊んだり、友達のよいところを見付けて自分から相手に伝えたりするなど、温かい雰囲気の中で友情を育んでいる。また、学級だけでなく、他の学級・学年の友達や習い事で関わる友達など、児童の交友関係は様々である。いずれにしても、友達と温かい友情を育むことが自分の人生を豊かにすることにつながるという実感をもたせていきたい。そこで本時では、友達の大切さについてじっくりと考えさせる機会を設け、友達を信頼して友情を深めようとする心情を育てていきたい。
③教材について
友達のことを思い、互いに信頼しながら友情を深めていくことの大切さを考えさせるために、中心発問では、章太が描いた「友の肖像画」を見た後に「家に帰ったら、すぐに章太に手紙を書こう」と決意したときの「ぼく」の思いを話し合わせる。章太のことを信じ切れなかった反省や後悔も出てくるかもしれない。しかし、章太からの思いをじっくりと受け止める気持ちや、章太のことを心から信頼し、章太のためにできることをしていこうとする思いなど、様々な考え方や感じ方を出し合い、友達との信頼をより深めていこうとする原動力について考えられるようにしたい。
その話合いをより深いものにするために、第一発問では章太を遠くへ見送るときの「ぼく」について、第二発問では、章太を元気付けるために心を込めて書いてきた手紙の返事が来なくなってしまったときの「ぼく」について話し合わせる。これらの学習活動を通して、友達の大切さやかけがえのなさを理解し、互いに信頼しながら友情を深めようとする心情を育てていきたい。
⑵ねらいに迫るための授業の工夫
①事前アンケートの活用
ねらいとする道徳的価値に対する児童一人一人の意識を高めるために、事前に行ったアンケートの中から、「あなたにとって、友達はどのような人ですか」という設問の結果を導入場面で提示する。「楽しい」「遊んでくれる」という日ごろの関わりを素直に表現した回答もあるが、「支えてくれる」「信頼できる」という内面的な友達との関わりを表した回答も見られた。そこで、「信頼できるとはどういうことですか」など、児童の反応を見ながら結果に対する問い返しを適宜行い、本時の内容項目に対する問題意識につなげていきたい。
②ICT端末等を活用した教材提示の工夫
児童が教材の内容にじっくりと浸り、登場人物の思いについて自分との関わりで考えることができるようにするために、スクリーンに場面絵を映しながら教師による読み聞かせを行う。その際はプレゼンテーションソフトを活用し、場面絵だけでなく発問に関する言葉やせりふなども表示する。
●授業記録
T 今日から五年生の道徳の授業が始まります。みなさんは、道徳と聞くとどのようなイメージがありますか。
C1 心の勉強だと言われたことがあります。
C2 登場人物の気持ちを考えて話し合う時間。
C3 自分の昔のことを振り返ることもあります。
C4 「〇〇」っていうお話が心に残っているなあ。
T いろいろなイメージを教えてくれてありがとう。ではみなさんは、道徳の授業が好きですか。
C5 自分と違う考えを聞くと、あぁ、なるほどって勉強になるから好きかもしれない。
C6 あまり考えが浮かばなくて発言できないこともあるから少し苦手かな。
T なるほどね。先生は、道徳の授業が大好きです。C5さんが言っていたように、たくさんの人のたくさんの考え方を知ることができる。しかも、毎時間違ったお話、違ったテーマで。これは、ほかの教科ではなかなか味わえないものだと思っています。だからこそ、みなさんにはこのような学び方を大切にしてほしいと思っています。(プレゼンテーションのスライドを見せる)
おわりに
道徳科の授業を大切にしていこうとする姿勢を教師が示し、よりよい学び方を児童とともに共有していくことが、授業の充実につながると考えている。まもなく始まる新年度。どのような学年・学級であっても、この過程を丁寧に行い、道徳科授業のよいスタートが切れるようにしていきたい。





信頼する友達のために B[友情、信頼]