―児童が主体的に対話することで,学びが深まる道徳授業―

東京都日野市立南平小学校 主幹教諭
小杉 純平
授業実践 第六学年
はじめに
私が教員人生をスタートさせたころ、道徳授業とはこういうものであると学んだのが心情理解のみに偏った形式的なものであった。当時の私は「こういうものなのか」と解せないながらも、授業をしていた。登場人物の気持ちを時系列で追って、授業者に忖度したかのように気の利いたことを言ってくれる児童を褒め称えて、授業を結ぶ。これで児童の本音を引き出せているとは思えなかった。そこで、時には実験的な手立てを織り込みながら、児童が前のめりになるような道徳授業を目指していた。児童が楽しく本音を語り合い、自身も納得できる道徳授業を、先輩から学びつつも何か物足りなさや違和感を感じていたころ、学習指導要領の改訂があった。現行の学習指導要領には、学習指導の多様な展開として「問題解決的な学習」を有効に活用することが重要とある。その背景には、これまでの道徳授業からの質的転換があったとのことで、若かりしころのモヤっとしたつかえが取れるきっかけとなった。
●現行学習指導要領実施当初の課題
実施当初の悩みは、教科化スタートの時期でもあり、これまで授業者の意図で教材選びをしていたことを思うと、不自由さを感じたことである。教科書に掲載されている教材を吟味し、問題解決的な学習を取り入れることができそうだと判断し、授業づくりをしていた。そのため、体験的な学習に適した教材を見いだすことに苦労したこともあった。また「議論する」というフレーズを安易に捉えてしまい、小グループで話し合わせたり、議論しやすいように無理に二項対立の構図を示したりするという工夫をしていた。
実施当初の課題としては、問題解決的な学習になるように無理矢理に授業展開をつくってしまったことである。その結果として、ただの「問題解決」の時間となり、道徳的価値を学ぶことから乖離(かいり)してしまったことも否めない。さらに、学習問題づくりを日常生活の事柄と結び付けすぎてしまったため、児童自身の経験からディベートのような構図になってしまい、一見話合いは盛り上がっているものの、道徳的な学びとしては深まらなかったということもあった。「問題解決的な学習」にしても「議論する道徳」にしても、言葉のフレーズを直球で捉えてしまうと、道徳科の特質を見失ってしまうことがあり、注意する必要があると気付いた。
以上のような幾つかの失敗を経て学んだことを生かし、現在取り組んでいることを、実践とともに紹介していく。
授業実践 第六学年
自由の大切さを理解し、自他の自由を尊重した責任ある行動が取れるよう、自律的に判断する力を育てる。
教材名 『修学旅行の夜』(東京書籍「新編 新しい道徳6年」)
⑴教材選び
特別の教科となり、教科書を使った授業が原則となったため、教科化前のように時期ごとの児童の実態に合わせた教材選びは難しくなった。しかしながら、児童にとって教材そのものの印象は大事であると考え、一年間の教材配置を考えた。学校行事や日常活動の中でのイベント、他教科等の学習などを見据えて一年間の計画を立てることで児童の問題意識は高まるため、問題解決的な授業が展開しやすい傾向があると感じている。
本実践では、栃木県日光市への移動教室の前に、移動教室に関連した内容項目の授業を三本立てで行ったうちの三本目である。ちなみに、「一学期に印象に残った授業ベスト3」がこれら三つの授業であったことから、学校生活と関連させることで児童の意識が高まっていくことが分かった。
⑵導入
導入については、大きく分けて二通りあると考える。「ねらいとする道徳的価値での導入」と「教材での導入」である。それぞれによさも課題もあるため、教材や授業展開によって使い分けが必要だが、現在は、多くの授業で「教材での導入」をするようにしている。道徳的価値での導入は、授業者にとっての安心感はあるものの、児童の問題意識は薄らいでしまうと考えたからだ。
本実践では、「日光移動教室で楽しみなことは何ですか」という問いから、Googleフォームにて回答を集めて、テキストマイニングで提示する(資料1)。その中に「寝る」や「部屋」「夜」というフレーズが目につく。この日常を表すフレーズを教材名に関連させて、教材提示につなげた。後に、展開の中でも触れることになる。

※ユーザーローカルAI テキストマイニングによる分析
(https://textmining.userlocal.jp/)
⑶学習問題・発問構成
学習問題の設定や発問構成は、現行の学習指導要領を機に最も大きく変化したと実感する部分である。問題解決的な学習の肝となる学習問題の設定と発問の構成を、できるだけ児童に委ねてみることで問題意識を高め、より問題解決的な学習を活性化させることができるのではと考えた。まず、児童に学習問題を設定させることで、授業前にこちらが想定していた「児童の実態」よりもリアルな実態が見えてくる。もちろん、ある程度のキーワードの想定と学習問題の候補は用意しておくが、導入でねらいとする道徳的価値に触れていなくても、教材提示とその感想を議論させることで、よほどのことがない限り児童が「考えたい」と思える学習問題が設定できる。特に高学年の授業で児童を信じて適度に託すことができれば、毎回の学習問題において、より児童主体の授業が達成できると考える。
本実践では、教材提示後に児童同士で教材の「共感」と「疑問」を共有することで、友達の意見に反応しながら、「考えたい」という意欲を高めていけるようにした。自分が思いもしなかった切り口の意見には、一緒に考えて結論を知りたいという意欲が湧くようで、自然と「みんなで考えてみたい」という雰囲気になるのである。児童の感想から生まれる「考えたい」と、教師が授業づくりの際に想定していた「考えさせたい」の乖離を埋めていくことで、発問から学習問題の設定までスムーズに流れる。本時の教材の中のキーワード「自分勝手」に気付かせる仕掛けも上手くいった。
⑷板書(資料2)
児童が考えを深めやすくできるように構造的な板書を心掛けている。「縦書きか横書きか」という質問をよく受けるが、私自身はどちらかにこだわりをもっているわけではない。自由度が高いという理由で、問題解決的な学習を進めるにあたり、横書きで授業する割合が多くなっている。
本実践でも、頭の中にあるイメージを構造的な板書に落とし込むために、簡単なイメージ図を作成している。こうした大枠に、児童の「考えたい」発問を当てはめて、授業の中で形にしていった。

⑸多面的多角的に考える&自己の生き方について考える
改訂以前の授業では、児童自身の考えを深めていくこと自体を目的としていた。しかし、同じ学齢の児童でも、ねらいとする道徳的価値に対する初期値には差異が見られる。その差異が、高学年になればより顕著に表れる。そのため、こちらが考えを深めさせようとすればするほど、道徳の時間が苦しい時間、もしくは優良と思われる言葉(本心とは無関係の)を発表する時間になってしまうおそれがある。そこで、「考えを深める」前段階として「考えを広げる」活動を何かしら入れるようにしている。
本実践の展開の中では、「自分自身の力だけでは、なかなか深まらないですね」と投げ掛け、「友達の考えたことを参考にさせてもらおう」と提案してみた。ノートに実際に書いた自分の考えを“青い枠”で囲み、児童が読んで回るという活動である。途中、自分の考えを更新したいと思った場合は、すぐに席で補足することを繰り返すことで、自分の考えが充実していく実感をもてていた。自分の納得する考えをもてた児童の自己肯定感は上がり、さらには友達の考えに影響を与えることができた児童の自己肯定感も上がるという、有意義な活動になった。本実践では、ノートに手書きで自分の足を使って考えを集めにいったが、ICT端末等を活用することでより時短に、より効果的な活動も見込めるのではないかと考える。
⑹学習のまとめ
「教師の説話」や「偉人の格言」などを上手く活用できればよいが、まとめの話だけに関心が行ってしまい、それまでの授業が意味を成さなくなってしまったり、ねらいから外れてしまったりと、最適なものを選択することは難しい。
本実践では、#(ハッシュタグ)を付けて、今日の授業のポイントとなるキーワードを考え、ノートに記述した。授業を総じて核心となることを児童自身の言葉で端的に表すという意味では、授業での学びを想起しやすく実生活にも生かされると手ごたえを感じている。
おわりに
問題解決的な学習を道徳科で実践するにあたり、学習問題の設定と、児童主体の学習形態は必須である。そのため、道徳授業に対する児童の参加度は高くなる。結果、「道徳が楽しい」「好きな教科は道徳」と口にする児童が増えている。これだけでも、現行の学習指導要領への一部改訂が、児童の道徳心を養うことに有効であったと実感している。何よりも、今はまだ想像すらできない“難題”に、対応できる心の経験値を高めておけるように意識して、授業づくりをしていく。





「自由に伴う責任」 A[善悪の判断、自律、自由と責任]