神奈川県綾瀬市立綾西小学校 教諭
吉田 雄一
授業実践 第三学年
はじめに
「この手の教材は過去に何度もやってしまっている」「結論が当たり前すぎて、児童に無理やりよいことを言わせるような授業になってしまう」かつて道徳の授業を考える際、そんなことに悩む時期があった。今は、一度扱った教材で数か月後に授業をしても、児童と新しい発見や気付きができるようになった。
それは何故か。本稿の結論をはじめに述べてしまうと「教材の解釈」と「現在の児童の実態」の組み合わせによって、様々な授業のパターンが考えられるためである。数ある教材の解釈の中から、今の児童にとって最も必要な部分を授業で扱うことで同じ教材でも常に新しい発見ができる。「友情」や「親切」などで児童の中にある「当たり前の先」を考えていくために、主に三つの方法を用いるようにしている。
⑴教材の捉え方を広げる
⑵教材そのものの在り方について考える
⑶教材から生まれた問いをもとに考える
よく言われることであるが、「教科書『を』教える」のではなく、「教科書『で』教える」ということにもこの三つはつながると感じている。
⑴教材の捉え方を広げる
(ア)内容項目の様々な場面を考える
例えば「友情」と聞くと、何を連想するだろうか。「遊ぶ」「仲良し」「信頼できる」などの場面が想起されるが、これらはいわゆる「一般的な友情」の捉えである。ここから、さらに別の友情の捉え方ができないかを考えてみる。「外国の知人との友情」「お年寄りの友情」「会わない友情」。時間や場所を変えてみたり、現代の社会構造と関連させたりと、内容項目に関わる様々な場面を考えてみることで、教材に書かれている以外の「新しい友情」が見えてくる。その中で児童の興味・関心のあるものを取り上げて、「教材の友情」との違いを考えていくのも面白いといえる。
(イ)教材の立場、条件を変える
道徳の教材には、「素直に謝ったら許してくれた」「悪いことをしたらバチがあたった」など、行動とその結果が当たり前の教材がある。児童にとって「当たり前の押し付け」の授業になりそうな場合は、その教材の設定や条件を次のように変えて尋ねてみるとよい。例えば
〇心を込めて謝った→「それでも相手が許してくれなかったらみんなはどうしますか」
〇ずるをした→「でも、みんなが気付かなければ内緒にして過ごしてもよいのではないですか」
このように教材の条件を変えて「こんな場合だったら……」を考えていくことで、大切なものに気付けることがある。
また条件の変更として、教科書に出てくる主人公やその周りの人物だけではなく、「主人公の家族は」「先生は、見ていた周りの友達は」「動物たちは」などと、教材文に書かれていない立場を考えてみることも有効である。
(ウ)気持ちや行動の原因を考える
教材の中には、明確な結論が書かれていないものがある。最後に、「僕は空を見上げた」「母の言葉が頭に浮かんだ」といった形で終わる教材も多い。こうした終わり方をする教材を扱うときは、主人公は何故このような気持ちや行動になったのかその「原因」を考えるようにする。そうすると、児童一人一人によって、その根拠が異なるため様々な答えや考え方に広げていくことができる。
このように、教材に書かれていない部分に注目し、想像していくことで学びのきっかけを生み出すことができる。
⑵教材そのものの在り方について考える
道徳の教科書には一枚の写真や詩だけが載せられているような教材もある。例えば、「昔の遊びの紹介」「いろいろな国の挨拶や文化の紹介」「おせち料理の意味の紹介」といったように、登場人物も出てこなければ気持ちの変化を問うこともない教材である。このような教材の場合は資料や写真を見て「なぜこのような写真が教科書で紹介されているのだろうか」を考えることで学びの本質に迫ることができる。前述のような教材では、児童から次のような意見が出てきた。
〇昔の遊びの紹介→「昔の物のよさが今のアイディアにもつながるからではないかな」
〇外国の挨拶・文化の紹介→「ほかの国のことを知ることで、大人になって外国で仕事をするときに、話ができるからじゃないかな」
〇おせち料理の意味→「料理だけでなく身の回りのものに込められた気持ちにもっと気付いてほしいからではないかな」
このように書かれている情報だけを読み取るのではなく、「なぜ書かれているか」という教材の在り方を児童と考えることで様々な価値観の発見につながっていく。
⑶教材から生まれた「問い」を基に考える
ここまで紹介した⑴、⑵は主に教材研究の段階で「児童の当たり前の先」を考える方法だったといえる。しかし「児童のつぶやき」や「問い」など授業中に生まれたものを基にしながら、「当たり前の先」を考えていくこともできる。例えば「自由」をテーマにした教材で授業をしたとき、児童から次のようなつぶやきがあった。
・自由とわがままの違いは何か。
・わがままであっても、他人には迷惑をかけなければよいのではないか。
・「自由時間のような意味で使う自由」と「束縛から心が解放される時の自由」は違うのではないか。
このような児童の何気ない一言から授業を深めるきっかけが生まれることがある。児童が授業の中で「見付けた問い」「つくり出した問い」の方がより実態に合っていると感じるときは、当初計画していた授業展開を変えるようにしている。これは先ほど紹介した⑴、⑵の方法と違い、その場で授業展開を考えていくため、教師の「瞬間的な思考」が必要である。しかし教師が準備した課題ではなく、児童の学びの文脈の中で生まれた問いであるため「自分事の学び」になりやすいといえる。
ここからは先ほど解説した「児童の問い」を基に「当たり前の先」を考えていく授業実践 を紹介していく。
学習指導過程
| 主な学習活動と発問構成 | 教師の支援と留意点 | |
|---|---|---|
| 導入 | 1.教材文の範読を聞きながら,本時のテーマをつかむ。 〇今日は「友達」について考えましょう。 | 教材を読みながら,児童のつぶやきに注目する。 |
| 展開 | ◎「①お金を払って何でも聞いてくれる友達」と「②お金は必要ないけど厳しいことも言ったり喧嘩もしたりする友達」ならどちらがよいですか。またなぜそう思うのですか。 | 二つの価値観の良い所と悪い所を比べながら,自分にとってちょうどよい友達の在り方について考えられるようにする。 |
| 終末 | 3.本時で考えたことを振り返る。 ○友達と仲良くしていくために大切なことは何だと思いますか。 | 教材のあらすじを振り返るのではなく,自身の新しい発見に目を向けられるようにする。 |




