~児童たちの経験と教材をつなぐ工夫~

東京都練馬区立関町北小学校 主任教諭
遠藤 円香
授業実践 第一学年
はじめに
低学年の発達の段階では、自分が実際に体験したことと、授業の中で考えたり話し合ったりしたことが結び付いて価値理解や心情につながる、という側面が強い。一年生の教材では特に、絵や写真が中心で文章が少ない教材があり、当たり前のことを聞くだけになってしまったり、話合いが深まらなかったりすることがある。私は、こうした教材で授業を行う際は特に、その教材が児童の体験してきたこととしっかりつながり、自分事として捉えられるような工夫を大切にしている。児童と教材の内容とを近付ける「しかけ」をした実践例を紹介する。
授業実践 第一学年
身近な自然に親しみ、動植物に優しい心で接しようとする心情を育てる。
教材名 「もうすぐ はるです」(出典:東京書籍「あたらしい道徳 一年」)
⑴指導観
①ねらいとする道徳的価値について
『小学校学習指導要領解説特別の教科道徳編』のD[自然愛護]の低学年の指導の要点には「児童の活動や体験を通して、自然に親しみ動植物に優しく接しようとする心情を育てることが求められる」と示されている。本時では、児童が身近な自然と自分との関わりを改めて意識し、親しみ慈しむことを大切に考えさせたい。
②児童の実態について
本校は「自然と命を守る学校」として、敷地内に多くの植物があり、普段から児童は自然に囲まれている。生活科や学級活動で季節ごとに自然と親しむ機会を意識してとっているので、本時の学習とその経験とを結び付けることで、さらに自然に親しみ、大切に思う気持ちを深めたい。
③教材について
写真を中心に構成されており、長い冬から春へ季節が移り変わる過程や春になった喜びが感じ取れるように、自然の写真が順番に配置されている。これらの写真を基に、季節の美しさや不思議さなどへの児童の素直な感動を大切に授業を進めたい。
⑵指導の工夫
●導入の工夫
春がくる前の自然の小さな変化や寒い冬から春になることの喜びを実感することが必要だが、雪国ではない地域の児童にとっては難しさがあると思われたため、導入に「はなをくんくん」(ルース・クラウス著、福音館書店)という絵本の読み聞かせを取り入れた。この絵本は、冬眠から覚めた生き物たちが、何かを目指して駆けていく様子がモノクロームで描かれる。最後に、雪の中に一つだけ咲いた花を見て全員がうれしさで踊り出すという内容である。生き物たちのわくわくした気持ちに自分を重ねることで、児童も春を迎える期待感を自分事として感じることができ、教材の内容に無理なく入れるよう工夫した。
●補助教材「つながる・ひろがる」の活用
自然のよさを多面的・多角的に考えるために、教科書の補助教材(QRコードからアクセスできる動画)を活用する。四季の移り変わりと共にどのような動植物があり、自分たちがどう関わってきたかを振り返ることにより、自分と自然とのつながりを感じ取ることができるようにした。
●他教科や日常の活動を生かす工夫
生活科では植物を育てたり観察したり、また生き物を探したりする単元がある。また、それらに関連して遠足や校外学習などでも、自然に親しむ活動を取り入れた。それ以外にも、通学路や校庭にある植物や生き物を朝の会などで定期的に取り上げた。また、給食で提供される旬の食材についても学級で紹介した。このように季節や身近な自然について意識して感じられるような取組を、学校生活の中で少しずつ積み重ねた。
本時の中でも、そうした活動を振り返りやすいように写真を提示し、より自己を見つめることができるようにした。
⑶授業記録
【導入】絵本の読み聞かせを行い、動物たちに自分の気持ちを重ねて考えさせる。
T この動物たちはどうして、走っているのでしょう。
C もうすぐ春がくるから。
C 春がきて、うれしいから。
【展開前段】本時の教材提示は、発問を進めながらその都度写真を提示する形で行った。写真を見たときの素直な感情を大切にするために教科書は開かせず、拡大したものを使用した。
・第一発問
T みなさんが、この動物たちのように最近「春がきているな」と思ったのはどのようなときですか。
C 花が咲いていた。
C 暖かくなってきた。
C 生き物がいるのを見た。
・第二発問
T (教科書の花の写真を提示する
C わあ、すごい。花がいっぱいだ。
T 春がくると、どのような気持ちになりますか。
C うれしい。
T どんなことが、うれしいのでしょう。
C 花や緑がきれい。
C 太陽が明るい気がする。
C 生き物がたくさんいてにぎやか。
C 風があたたかい。
・中心発問
「つながる・ひろがる」の写真を提示し、日本には四季があり、同じ場所でも自然の様子が移り変わることを押さえてから発問を行った。
T みなさんが好きな季節や自然は何ですか。理由も教えてください。
C 春に桜の下でお花見をするのがいい。
C 学校の池でおたまじゃくしを見付けてうれしかった。
C 夏にヤゴとりをしたのが楽しかった。
C 今は木に葉がないけど、夏は緑になるからいい。
C 秋は、落ち葉とかどんぐりで遊んで楽しかった。
C 冬は雪が降るから好き。
C 氷や霜柱を踏んで楽しい。
C 冬はほかの季節より静かな気がして好き。
意見交流後、電子黒板に生活科や遠足で自然と触れ合ったときの様子を映し、出された意見と関連付けた。漠然とした「自然」というイメージが、自分の身近な自然と結び付くようにしてから、展開後段につなげた。
【展開後段】
・振り返りの発問
T 「自然っていいなあ。」と思うのはどのようなところですか。
C 空気がきれいで気持ちがいいところ。
C 自然の中にいると心が落ち着く。
C いろんな季節によって、景色とか、できることが違うところが面白い。
C いろいろな色があってきれい。葉っぱとかお花とか。
C 音もいろいろある。風とか実が落ちる音とか。
C 食べ物も季節で違う。
C 「旬」っていうのだよね。
C 生き物も自然だと思う。そういうのを観察するのも楽しいからいい。
C 自然があるから、人間も生きていられるから感謝しないといけないと思う。
おわりに
低学年の道徳授業をする際には、「感じて学ぶ」ということを大切にして授業を行っている。絵や写真が中心の教材は、そのような低学年の発達の段階に合わせたものであると言える。今回の授業も、「自然を大切にしなければならない」と頭で考えるのではなく、植物を見たり、遊んだり、生き物と触れ合ったりしたときに実際に感じたことを基に考えを深めることに重きをおいた。その結果、自然のもっている様々なよさを児童自身の言葉で改めて振り返ることができ、自分と自然との関わり方を考えることができた。
このように、児童自身の感覚を中心に授業を進めるためには、日ごろからの種まき(他教科等との関連付けや普段の教師の話など)や、教材と児童一人一人をつなぐ方法を常に模索していくことが必要だと考える。その一時間だけでなく、学校生活の様々な活動を生かしながら授業をつくっていけるようこれからも工夫を続けていきたい。





自然となかよし D[自然愛護]