【偉大な功績を残した人物を扱った教材】自分事として向き合い,考えを深める道徳科の授業の工夫

―地域教材の開発と効果的な活用―

愛媛県松前町立北伊予小学校 教諭

渡部 陽子
授業実践 第六学年

 道徳科の時間における教材は、児童が道徳的価値の自覚を深めていくための大きな手掛かりになる。そこで、児童が自分事として向き合い、考えを深めることができるような魅力的な地域教材の開発に取り組んだ。
 本時で扱った教材は、地域の教育の発展に貢献した偉人「相原賢(あいはらけん)」にまつわる自作教材である。本校の正門横には相原賢の頌徳碑があり、児童も地域の偉人として認識はしている。しかし、どのような功績を残したのか詳細については知らない児童がほとんどである。そこで、郷土を愛し、郷土の発展のために尽力した相原賢の生き方に触れることで、自分たちが生まれ育ったふるさとを愛し、郷土をよりよくしていこうとする思いを高めることをねらいとして地域教材を作成し、その効果的な活用を図った。

授業実践 第六学年

主題名

郷土を愛する心 C[伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度]

ねらい

自分自身のふるさとへの思いを見つめ直し、ふるさとをよりよくしていこうとする態度を育てる。

教材名 「見ててよ、ぼくの姿を―相原賢の生き方を通して―」(自作教材)

①ねらいとする道徳的価値について
 自分が生まれ育った郷土は、生きていく上で心の拠り所となり、精神的な支えとして大きな役割を果たす。また、郷土の伝統と文化を大切にする心は、過去から現在に至るまでに育まれた郷土の伝統と文化に関心をもち、それらと現在の自分との関わりを理解する中から芽生えてくるものである。そこで本時では、地域人材を扱った教材を通して「ふるさと北伊予」のよさを実感させ、郷土を愛する心や郷土をよりよくしようとする態度を育てていきたい。

②児童の実態について
 「ふるさと北伊予」のよさを実感させるために、道徳科以外の指導としては、総合的な学習の時間での社会福祉活動、国語科での地域の行事についてパネルディスカッションなどを行い、郷土への関心を高めた。この結果、「ふるさと北伊予」の人や行事に関心をもつようになってきたが、郷土の発展に尽くした先人の思いやそれらと自分との関わりを深く考えるには至っていない。
 そこで、郷土を愛する心やそれが受け継がれていることの尊さをじっくりと考えさせたい。

③教材について
 本教材は、郷土を愛する心やそれが受け継がれていることの尊さを考えさせるために、郷土の偉人である相原賢を題材にした自作教材である。主人公のたつやが、相原賢の「ふるさと北伊予」を愛する生き方に共感し、獅子舞を通して「ふるさと北伊予」をよりよくしていきたいという思いを抱く姿を軸に、自分自身がこれからどのような気持ちを大切にして「ふるさと北伊予」に関わっていくのかを考えられるようにする。そして、自分自身のふるさとへの思いを見つめ直し、よりよくしていこうとする態度を育てていきたい。

①アンケートの実施
 まず、ねらいとする道徳的価値への方向付けを図るために、事前にアンケートを実施し、その結果を基に「北伊予の伝統行事や文化」についての共通認識をもたせるようにする。

②板書の工夫
 黒板全体を使って教材の世界をつくり、児童を教材に引き込むような工夫をすることで、児童が登場人物に自我関与できるようにする。

③発問の工夫と対話的な活動の導入
 中心発問では、郷土を愛し大切に思う心とその心がずっと受け継がれていることの尊さを、たつやの獅子舞への気持ちの変容から考えさせるようにする。このとき、殿様からの誘いを断ってでも、「ふるさと北伊予」の発展のために尽力した相原賢の生き方に共感したたつやの気持ちに自我関与させる。
 終末では、自分の北伊予への思いを見つめ直し、これからどのように関わっていきたいかを自分事として考えさせるために、対話的な活動(「あいあいタイム」)を取り入れ、友達の多様な意見に触れ、多面的・多角的に考えることができるようにする。

①教材提示の工夫
 地域教材(郷土の偉人)の学習を扱う場合には、時代背景の読み取りの段階で児童の思考が途絶えることがないように工夫することが大切である。そこで、時代背景を押さえるために、相原賢の業績をまとめた年表や校内にある頌徳碑や書画の写真を補助黒板で提示した。児童からは「この書画は会議室で見たことがある」「校門横の石碑は、相原賢と関わりがあったんたんだな」「こんなにすごい人が北伊予にいたんだね」など様々なつぶやきが聞かれ、相原賢をより身近な存在として受け止める児童が多く見られた。この補助黒板を活用して時代背景を確認しながら丁寧に学習を進めたことで、児童は登場人物に自我関与して考えることができた。

②導入や終末の工夫
 導入では、事前に実施した「北伊予校区の好きな行事や場所」についてのアンケートを基に、「北伊予の伝統行事や文化」についての共通認識をもたせた。このことで、ねらいとする道徳的価値への方向付けを図ることができた。
 終末では、「ふるさと北伊予」を愛し、郷土の発展のために尽力した相原賢の生き方に共感したたつやの気持ちを自分事として考えさせるために、事前アンケートで出てきた「北伊予校区の好きな行事や場所」の写真をスライドショーにして児童に提示したり、唱歌「ふるさと」をBGMとして流したりして、地域への思いに浸らせた。その後の振り返りでは、相原賢の「ふるさと北伊予」を愛する思いと重ねながら、自分事としてふるさとを見つめ直し、これからどのように関わっていきたいかじっくりと考えることができた(資料1)。

資料1 児童の振り返り(ワークシート)

③板書の工夫
 主人公のたつやが、「ふるさと北伊予」を愛する相原賢の生き方に共感し、獅子舞を通してふるさとへの思いを高めていく気持ちの変容を考えさせるために板書を工夫した(資料2)。相原賢の心情を黒板の中心にまとめ、たつやの心情を左右に板書することで、郷土を愛する思いを深めたたつやの心情の変容を視覚的に分かりやすく比較できるようにした。児童は、相原賢の生き方を通して、たつやの心情が変容したことを印象的に捉えることができた。
 さらに、振り返りの場面では、中心発問で登場人物に自我関与して考えた気持ちを自分の今後の生き方につなげて考えられるような板書構成にした。児童は、地域と自分との関わり方について考えを深め、北伊予の伝統を受け継いでいこうとする思いを高めることができた。

資料2 本時の板書

 本校では、児童が仲間と対話し、考えを深めるための話合い活動を「あいあいタイム」と位置付け、道徳科に限らず様々な教科で取り入れている。
 今回の地域教材では、「ふるさと北伊予」への思いをさらに多面的・多角的に考えさせるため、「あいあいタイム」を振り返りの場面に設定した。小グループの話合いの前にワークシートに自分の考えをまとめる時間を確保したので、児童がよりよい生き方についてじっくりと考え、互いの考えを伝え合うことができた。また、友達の発言に対して感想を伝えたり、類似点を見付けたりするなど、児童同士が問い返しをしながら話合いを深めることができた。児童は、「今まではあまり地域行事に参加していなかったけれど、これからは積極的に取り組んで、一つ一つの行事を大切に守り抜いていきたい」など、自分自身のふるさとへの思いを見つめ直し、ふるさとを大切にしようとする心情を高めることができた。

○ 「ふるさと北伊予」の先人である相原賢の生き方を地域教材として扱うことで、受け継がれている郷土の伝統や文化を再確認し、自分自身がこれから「ふるさと北伊予」をよりよくしていこうとする態度を育むことができた。
○ 「あいあいタイム」を振り返りの場面で取り入れたことで、「ふるさと北伊予」への思いを多面的・多角的に考え、一人一人の郷土への思いを高めることができた。
○ 主人公の心情の変容を丁寧に問うことで、児童自身の地域への思いを掘り起こすことができた。
● 自作教材の作成においては、伝記形式で相原賢の弱さや葛藤を取り入れた構成を工夫すれば、郷土への思いをより深く考えさせることができたと感じた。
● 内容項目がC[伝統と文化の尊重、国や郷土を愛する態度]であったため、葛藤する場面が少なかった。教材文の構成を工夫するとともに、授業全体を通して何をどこでじっくりと考えさせたいかを明確にし、発問を構成していく必要がある。

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