【上学年】児童の考えの深まりを目指して

―中心発問の場面での意見共有―

東京都中野区立桃花小学校 主幹教諭

田尻 佑樹
授業実践 第五学年

はじめに

 中心発問は、展開前段で本時のねらいとする道徳的価値に迫る発問である。中心発問場面で児童が様々な意見を交わし、思いや考えを深めることは、自己の振り返りの充実にもつながる。
 本稿では、五年生で行った授業を振り返る。教材の内容は、三十年前に廃園の危機にあった動物園の実話である。旭山動物園に勤める坂東元さんは、ペンギンの魅力を引き出すためにペンギン館を作る決心をする。技術的に様々な問題が発生するが、強い信念をもち、見事ペンギン館を完成させる。本授業を通して、夢や目標に向かい、困難にぶつかってもくじけずに努力して物事をやりぬこうとする心情を育てたい。

授業実践 第五学年

主題名

困難を乗り越える思い A[希望と勇気、努力と強い意志]

ねらい

次から次へと問題が出てきても、強い思いをもって取り組み続けた坂東さんの気持ちを考えることを通して、困難があってもくじけずに努力して物事をやりぬこうとする心情を育てる。

教材名 ペンギンは水の中を飛ぶ鳥だ(出典:「新しい道徳5」東京書籍)

①教材提示の工夫
 中心発問を深めるためには、教材提示の充実が欠かせない。本授業では、坂東さんの気持ちに自分の気持ちを重ね合わせて考えることでねらいとする道徳的価値に迫る。児童が坂東さんに自分を重ねられるように教材提示を工夫した。
 今回、教材提示はパワーポイントで作成したスライドショーで行い、教科書の写真や実際の旭山動物園の写真等、BGMを交えながら、臨場感あふれる教材提示を心がけた。本授業では、ペンギンが水の中を飛ぶように泳ぐ姿を見せたいという坂東さんの思いが重要である。そこで、ペンギンへの思いを語る場面で、南極の海を驚くような速さで泳ぐペンギンの動画を挿入した。さらにペンギン館が完成したときの喜びをより味わえるように、第三発問の前に実際のペンギン館の動画を視聴させる。

②困難にぶつかったときの思いを多面的に考える
 本授業では中心発問で「次から次へと問題が出てきたときの坂東さんの気持ち」を考えさせることを通して、困難にぶつかったときに人間が抱く思いについて多面的に考えさせた。
「不安」「あきらめない信念」「ペンギンの魅力を伝えたい思い」「夢を叶えたい希望」等、様々な思いを引き出したい。そこで、中心発問場面では個人・小グループ・全体の流れで意見を共有する。さらに全体共有の場面では、児童の意見を教師が分類・整理して板書した。整理したものは自己の振り返りの場面でも生かせるよう配慮した。

③中心発問と自己の振り返りをつなげる
 実在の人物(偉人)の教材は自己の振り返りが難しいと言われている。その人が成し遂げたことと自分との差が大きいことが原因の一つである。今回、中心発問と振り返りをつなげることで、児童がより自分自身を見つめられるようにした。振り返りの発問では、「夢や目標に向かう中で、困難にぶつかってもあきらめずに努力を続けたことはありますか。そのときに支えになった思いは何ですか」と聞く。中心発問では、困難にぶつかったとき、坂東さんがどのような思いを抱いたのかを尋ねる。不安もある中で困難を乗り越えた思いを多様な視点で引き出し、板書にまとめる。振り返りに入る前に板書を見ながら、坂東さんの支えとなった思いを簡単に考えさせる。中心発問で考えた内容を参考に、自分の思いを考えることができると考えた。

【導入】夢や目標に向かって頑張っていることを振り返る。
 今、夢や目標に向かって頑張っていることはありますか。心の中で思い浮かべてください。(児童に今頑張っていることを心の中で振り返らせ、価値への導入をはかった。その後、旭山動物園について簡単に説明した。)

【展開前段】

 パワーポイントで教材提示を行った。実際の旭山動物園の動物の写真や様子を交えながら、読み聞かせた。実際のペンギンが水の中を泳ぐ動画(十秒ほど)を見せると「すごい、速い」と児童はつぶやいていた。

 ペンギン館を作ろうと決心したとき、坂東さんはどのような気持ちだったでしょうか。
 ペンギンのためにも、もっとペンギンをお客さんに見てほしい。
 これで動物園に大勢のお客さんが来てほしい。楽しんでほしい。
 失敗するかもしれない。それでも旭山動物園の未来が掛かっている。
 十人ほど手が挙がったので意見を聞いた。ペンギンについてもっと知ってほしい、お客さんを喜ばせたい、動物園を救いたいと、ペンギン館にかける強い思いが出された。

 次から次へと問題が出てきたとき、坂東さんはどのような気持ちになったでしょうか。(十二、三人の児童が手を挙げた後、小グループで話合いを行った。その後、全体で意見を共有した。)
 あきらめたら、動物園がつぶれてしまう。絶対にあきらめないぞ。
 ペンギン館を作る思いはあきらめない。
 お客さんを増やして、ペンギンがすごいということを世界中の人に知ってほしい。
 似ているけれど、あきらめたくない。
 絶対に夢の動物園にするんだ。
 児童から出た多様な意見を板書に分類して書いた。「あきらめない」強い思い、「ペンギンの泳ぐ姿を知ってほしい」と願う原動力、「夢の動物園を作る」という希望などを分類して板書に整理した。困難にぶつかっても、乗り越えようとする強い思いが次々と出された。その時、A児が何か言いたそうな表情をしていた。
 さんはどう思いますか。
 えー。……もうだめだ。
 詳しく教えて。
 もう無理かもしれない。このまま廃園になるかも。
 なるほど。不安な気持ちもあったのですね。
 A児が困難にぶつかったときに感じる不安を述べた。その意見にうなずく児童が数人おり、次のような意見が挙がった。
 あきらめようかな。難しいなあ。
 ペンギンのことを思って頑張ってきたけれども、建設員の気持ちを思えていなかったのかもしれない。
 A児の不安な気持ちを表す意見をきっかけに、あきらめようとする人間の弱さ、さらに共に働く仲間への配慮がなかったのではないかと心配する気持ちまでもが出された。中心発問では、人は困難にぶつかったときに不安や心配な気持ちをもつこと、一方であきらめずに取り組もうとする強い思いをもつことを考えることができた。

 完成したペンギン館の動画を児童に見せた。目にも止まらぬ速さで泳ぐ姿に、児童からは「すごい、本当に飛んでいるみたい」と歓声が上がった。

 「うわあ、速い」と驚くお客さんを見たとき、坂東さんはどのような気持ちでしたか。
 あきらめないで続けてよかった。
 ペンギンも喜んでくれているはずだ。
 うまくいかないことがたくさんあったが、それを乗り越えてきた。本当によかった。
 第三発問を通して、努力が実ったときの達成感をおさえた。その後、展開後段とつなげるために、板書を振り返りながらどのような思いがあったから坂東さんは困難を乗り越えられたのかを聞いた。児童は中心発問場面の板書を見ながら、「ペンギンのため」「みんなが楽しめる動物園を作りたい」「やればできると自分を信じる」「あきらめたくない思い」という意見が挙がった。支えになった思いを確認した上で振り返りに入った。

【展開後段】

 夢や目標に向かう中で、困難にぶつかりくじけそうになったことはありますか。そのときに支えになった思いは何ですか。
 僕はサッカーを頑張っています。最初はうまくいかないことが多くて、くじけそうになったけれど、今はだいぶうまくなりました。やめなかったのは、応援してくれる人の存在とサッカーが好きな思いがあったからです。
 私は今勉強をがんばっています。それは将来医師になりたいからです。なかなか勉強が難しくてうまくいかないときもあるけれど、絶対に医師になり、患者さんを救いたいとの夢があるから頑張ることができています。

おわりに

 本授業では、中心発問で「困難にぶつかったときの人間の思い」を様々な視点から出し合い、自己の振り返りにつなげることをねらった。特にA児の意見がきっかけで深まりが生まれた。前向きな強い思いが出る中で、A児が不安な気持ちを一生懸命発表してくれた。それを周りの児童が受け止め、広げた。人間は困難にぶつかったときに不安を感じる。その上で、それを乗り越える強い思いをもつことを全員で考えることができた。様々な意見を認め合う道徳の授業の楽しさを感じた場面だった。
 互いを認め合う学級経営、児童の関係性の上に充実した道徳授業がある。道徳科の時間が児童にとって大切な時間になるようにこれからも努力を続けていきたい。