
神奈川県川崎市立野川小学校 教諭
田中 潤也
授業実践 第六学年
はじめに
学習指導要領の全面実施から四年以上が経過した。特別活動においても学級活動⑶の設置やキャリア教育の要としての特別活動の役割が明文化された。また「キャリア・パスポート」については、学習指導要領に「児童(生徒)が活動を記録し蓄積する教材等を活用すること」と明記されたことを受け、全国の自治体、学校等でその扱いについて試行錯誤されてきた。当時在籍していた学校では、「キャリア・パスポート」を作成することが目的となってしまい、活用することまで至らないという声が聞こえた状況があった。私は「キャリア・パスポート」が導入されたことは児童の成長の上でとても有効だと考えているが、その「活用のよさ」が未だ理解されずSNS等でも「作ればよい、蓄積さえすればよい」といったマイナスな意見が散見されている状況もある。そこで、本稿では「キャリア・パスポート」を活用することの効果について実践を基に紹介する。
実施当時の状況
平成三十一年三月に文部科学省から「キャリア・パスポート」例示資料等についての事務連絡が発出された。具体的な紙面の例などが示されたが、各自治体や学校ではどのように進め作成すればよいのか思慮したのではないかと思う。幸いなことに川崎市ではキャリア教育の充実に向けた準備が進んでおり、平成二十八年度から全市立小・中・特別支援学校に「キャリア在り方生き方ノート」(資料1)が配布された(現在は高等学校にも配布)。このノートは学校、家庭及び地域における学習や生活の見通しを立て、学んだことを振り返りながら、新たな学習や生活への意欲につなげたり、将来の生き方を考えたりする活動を行う際に活用できる内容となっており、このノートの一部を「キャリア・パスポート」にそのまま綴って蓄積できる工夫もされている。
それまでも学級活動の時間に使用したワークシートなどをポートフォリオのように蓄積していたが、年度末に児童へ返却することが多かった。そのため、年度をまたいでもち上がることがなく、年間の成長は感じることはできても、成長のつながりを感じにくくもったいなさを感じていた。その点、長期間にわたって自身の学びや成長が積み重なり、当時の自分の考えや思いを次年度以降に蓄積できる「キャリア・パスポート」の導入は児童(生徒)が自分の成長を感じることができるとても有効な資料であると感じたことを覚えている。

(川崎市教育委員会事務局教育政策室作成 川崎市版キャリア教育 キャリア在り方生き方教育リーフレットより)
授業実践 第六学年
●活用場面とその実際
「キャリア・パスポート」の活用においてはその特性上、学習状況やキャリア形成を見通したり振り返ったりしながら、自分の成長を自己評価できる場面での活用が考えられる。特に学級活動⑶「○年生になって」や「○学期のめあて」、年度末の「○年生に向けて」、または各学校行事等に向けためあてと振り返りは毎年行う内容なので扱いやすく、次の学年につなげやすい内容ではないだろうか。本稿では年間を通して「キャリア・パスポート」を活用した実践について紹介する。
実践①「六年生になって」 ⑶ア 一人一人のキャリア形成と自己実現
「キャリア・パスポート」を活用するに当たり、教師はもちろんのこと児童にも活用のよさ、必要性や有効性を感じてもらうことが大切だと感じ、年度初めの学級活動⑶「六年生になって」では授業の中で児童と一緒に「キャリア・パスポート」の意義を考える時間を設けた。児童からは「自分の成長が感じられてよい」「これまでめあてにしてきたことが達成できてなくても、今年も頑張ろうと思える」と五年生のころのワークシートを振り返り、自身の成長を実感するとともに今後の課題についても前向きに捉える様子が見られた。活用の意義を実感した児童はその後の活動にも意欲的になり、「キャリア・パスポート」をより身近に感じることができた。授業の中で立てためあてを折に触れて見返したり、学級担任や保護者からもらった励ましのコメントを読んだりしてめあての達成に向けて取り組む姿が見られた。
実践②「後期のめあてを立てよう」 ⑶ア 一人一人のキャリア形成と自己実現
十月に行った学級活動⑶「後期のめあて」(川崎市は前期・後期の二期制)では、「さぐる」の場面で自身の「キャリア・パスポート」を振り返り、自分の成長を実感したり、課題を見つめたりする時間を設けた。この時間に学級担任や保護者からのコメントを熱心に読んでいる児童もいた。また、友達と感じたことを共有する時間をとったことで互いの成長や課題についても考えることができた。「見つける」の場面では、残りの学校生活でさらに自分が成長していくために必要なことを考え、後期のめあてを立てた。

実践③「中学校へ向けて」 ⑶ア 一人一人のキャリア形成と自己実現
二月に行った学級活動⑶「中学校へ向けて」では、「つかむ」の場面で中学校生活へのアンケート結果を活用して楽しみなこと・不安なことを共有した。「さぐる」の場面では、卒業生に協力してもらい、中学校生活への疑問や不安が解消できるような夢や希望あふれるインタビュー音声を流した。「見つける」の場面で、将来なりたい自分について考え、そのために必要なことをこれまで蓄積してきた「キャリア・パスポート」を活用して考えた。最後に「決める」の場面で中学校入学に向けて今の自分にできることを考え、残りの小学校生活のめあてを立てた。中学生からの話を聞き、不安に思っていたことが解消されたことで近い将来を前向きに考えることができるようになり、ポジティブに自分の頑張りたいことを考えられるようになったと感じた。


●活用のイメージとその効果
「キャリア・パスポート」の活用にあたり、児童と活用のイメージを共有した。資料5のように「キャリア・パスポート」を活用することで少し前の自分を振り返り、少し先の将来の見通し、今の自分を見つめ、意思決定をして実践するという実生活の自己調整の流れを児童に分かりやすいよう家庭科の裁縫で学習した本返し縫いのイメージで伝えた。
「キャリア・パスポート」を有効に活用することで、児童もその年の学級担任もまた保護者も長期的に成長を感じることができる。
児童にとっては自身の学びのアルバムのようなものができることで自分の学びを振り返り、次の目標を意思決定して実践することを通して、自己理解を深め、自尊感情を高めるとともに、実生活を自己調整し、未来に向かって夢や希望をもって歩んでいくために活用できるといえる。また、一人一人の記録が半永久的に残ることで自己評価の力を高め主体的に学びに向かうことができるようになると考える。

教師にとってはその児童がどのような学びを積み重ねて今に至るのか、どのような課題をもっているのかが分かりより深い児童理解につながる。またその背景を知ることで目の前の児童に的確に助言ができるのではないかと考える。今回は紙面の都合上省略したが、本実践でも「キャリア・パスポート」における学級担任のコメント(助言)は児童のその後の意思決定に大きく影響する傾向が見られた。これまでもワークシート等にコメント(助言)をしてきてはいるが、「キャリア・パスポート」になったことで将来何度も見返すことを考慮し、これまで以上に言葉を吟味して書くようになった。一人一人の児童をより深く知り、現在の児童の姿を認めた上でその児童の今後にとってよりよい意思決定になるような助言も重要である。
おわりに
「キャリア・パスポート」の扱いについては各学校や児童の実態に応じて活用の仕方に工夫が必要であることも考えなければならない。本実践では「キャリア・パスポート」を児童自身が管理し、いつでも取り出し読み返せるよさを重視したが、失くしてしまうというリスクも伴う。しかし、失くしてしまうことを懸念し学校で厳重に保管してしまうと十分な効果も得られないと感じる。今後も児童だけでなく保護者、校内の教員にも「キャリア・パスポート」活用の重要性を周知し続けていくことも大切であると考える。
現行の学習指導要領での指導においても、特別活動を通して目の前の児童に様々な力を身に付けてほしいという気持ちは変わらない。ただ「キャリア・パスポート」があることで今までよりも児童一人一人の過去と現在と未来をつなぐ意識が高まったと感じている。
本稿では実践を基に「キャリア・パスポート」の意義や活用することの効果についての事例を紹介した。学校として、また教員として「キャリア・パスポート」を作成、活用する意義を感じられていなければ児童にその価値を伝えられず、児童も活用できない。逆にその意義が分かっていれば、自分の足跡を残し高校生になっても見返せる自分の宝物としての価値を見いだせるのではないだろうか。
(『道徳と特別活動』2024年10月号)




