【人間理解】人間理解を意図した授業の板書

東京都中野区立啓明小学校 主幹教諭

市倉 尚
授業実践 第三学年

はじめに

 道徳的価値の「人間理解」とは、道徳的価値は大切だと分かっていても、それをなかなか実現することができない人間の弱さを理解することである。「人間理解」を図っていくことで、児童の考えは表面的な思考から脱却することができる。また、人間理解が深まるからこそ、道徳的価値について自己を見つめる活動がより一層充実していく。「人間理解」を意図した授業づくりを工夫することで、児童の心に響く道徳授業へと近付くことができる。

授業実践 第三学年

主題名

「心のブレーキ」 A[節度、節制]

ねらい

周囲に流され、つい度が過ぎた行動をしてしまった「ぼく」の気持ちを考えることを通して、一度立ち止まってよく考え、節度ある行動をしようとする心情を育てる。

教材名 「どんどん橋のできごと」(日本文教出版「小学どうとく 生きる力3」)

 雨上がりのいつもと違う様子の川に興味をもち、あたりにある棒切れなどを川のうずの中に流して遊んでいた「ぼく」たち。「ぼく」は迷ったけれど、周囲に言われるがままその川に傘を流してしまう。傘はぼろぼろになってしまい、なんとも言えない気持ちで家路につくという物語である。
 本実践では、雨上がりのいつもと違う様子の川にわくわくする気持ちや、周囲に流されて行動してしまった「ぼく」の弱さを共感的に考えることを通して(道徳的価値についての人間理解)、自分の弱さに負けてしまった具体的な経験を想起させていきたい。楽しさや周りの考えに流されてついやってしまったり、行動がエスカレートしてしまったりするという弱さは自分にもあることに気付かせ、そのような気持ちに対して一度立ち止まって考えることの難しさについて理解する。

資料1 本時の板書の全体図

①教材の押さえどころを板書
 教材の内容を全員が同じように理解できるように板書を工夫する。本教材では「雨の影響でいつもと川の様子が違った」ことを押さえることが、人間理解を図る上で大切なことである。普段見慣れた川の様子が違うこと、それは登場人物の子供たちがわくわくするには十分な理由である。このわくわくが子供たちに失敗を犯させてしまう。今回は吹き出しで発問に付け加え、登場人物の状況をさらに想像できるように工夫した(資料2)。
 人間理解のポイントを教師側が意図的に押さえ、心情を問うことで児童は自分を見つめて考えることができ、それが人間理解へとつながる。

資料2 状況理解を促す吹き出し付きの絵

②「人間理解」と「価値理解」を並列で板書
「人間理解」は、「道徳的価値は大切である」という理解が大前提になければならない。人間理解を図るために、「価値理解」を並列に扱うことが大切である。そのため、その二つの考えの対比を意識した板書を工夫した。
 本実践の中心発問では、周囲に流され迷っている「ぼく」の正しさ(価値理解)と弱さ(人間理解)を対比して板書した(資料3)。

資料3  価値理解と人間理解の意見を対比して示した板書

 中心発問では、「やらないぼく(価値理解)」と「やるぼく(人間理解)」の役割を与えて学級を半分に分けて役割演技を行った。今回は、初めのせりふを「やらないほうがよいかな」と指定し、そのせりふを言った後にもう一方が「でもね」と発言してから発言する形式にした。発言が済んだら、もう一方の役割の児童が「でもね」と言って発言する。「でもね」を繰り返すことで、相反する気持ちを考えることができると考えた。
 やらないほうがよいかな。
 でもね、僕もやってみたい。
 でもね、壊れてしまうかもよ。
 でもね、みんなに勇気がないって思われたくない。
 でもね……(続いていく)
 単純に「やってみたい」という思いから、「みんなから勇気がないと思われたくないからやる」という考えへと広げることができた(人間理解への深まり)。
 児童の思考の変化も右から左に流れるように板書することで、思考の深まりが視覚的に分かりやすくなる。また、発問の右側に「価値理解」、左側に「人間理解」の考えを分けて板書するのも同様の理由である(左側に意図する考えが来るようにする)。

「人間理解」を意図した授業は、時として児童の心を締めつけてしまう。なかなか自己開示できない児童にとっては、「自分の弱さを皆に示してよいのか」「こんなこと言ったら怒られてしまうかもしれない」と考えてしまうかもしれない。そのために、板書の一番初めと最後にあえて「心のブレーキが踏めなかったこと」と強調して板書した。「先生も、友達も、みんな同じような弱さをもっているのだよ」と児童に伝える意図がある。

おわりに

「人間理解」を意図した授業を行うことで、道徳授業はより一層充実したものとなる。そのためには、教材のどの場面にフォーカスするかが重要になる。教材分析を丁寧に行い、登場人物がもつ「人間の弱さ」を見付け、どのように児童に共感させていくのか工夫する。板書は、そのための大きなヒントとなる。複雑で難解な板書ではなく、指導の意図を明確にした板書を工夫していきたい。

(『道徳と特別活動』2024年6月号)

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