令和8年3月7日(土)に国立オリンピック記念青少年総合センターで,一般財団法人総合初等教育研究所主催,株式会社文溪堂・株式会社学宝社協賛の「第29回教育セミナー」が開催されました。年度末の多忙な時期にも関わらず,全国各地から600名余りの方々が参加され,午前には6つの各教科等のワークショップが,午後には8つの各教科等の分科会に続いて,全体会が行われました。
ここでは,全体会の主要プログラムであるシンポジウムの様子について報告します。
テーマは「次世代の学校教育を考えるII~次期学習指導要領を見据えて~」
本年度のシンポジウムのテーマは,昨年度に引き続くものです。
文部科学省は令和6年12月25日に「初等中等教育における教育課程の基準等の在り方について」中央教育審議会に諮問しました。
これを受けて,中央教育審議会の教育課程企画特別部会で審議が重ねられ,令和7年9月25日に「論点整理」が取りまとめられ,現在は総則・評価特別部会をはじめ,各教科等のワーキンググループで学習指導要領の改訂に向けた検討作業が進んでいます。
このようなタイミングで開催されるシンポジウムということで,文部科学省初等中等教育局教育課程課教育課程企画室の栗山和大室長に「次期学習指導要領実施に向けた検討状況~見通しを持ち,明日の教育改善にもつなげるために~」と題した基調講演をいただき,様々な立場から参加されたシンポジストの先生方とともに,議論を深めました。
登壇されたシンポジストは角屋重樹先生(広島大学名誉教授/国立教育政策研究所名誉所員),松原修先生(全国連合小学校長会会長/東京都武蔵野市立第二小学校校長),田内利美先生(東京都新宿区立西戸山小学校副校長),進行は北俊夫先生(一般財団法人総合初等教育研究所参与)です。
基調講演で説明された主なポイント
今まさに次期教育課程の基準の在り方の策定に中心的に携わっている栗山室長より,「論点整理」の内容を中心に説明が行われました。短時間ですべての内容について触れていただくことはできないため,令和8年1月29日に公開された「教育課程企画特別部会 論点整理(ポイント:詳細版)」の資料をもとに,焦点を絞ってご説明をいただきました。
- 検討においての前提
子供たちを取り巻くこれからの社会 - 学習指導要領改訂の大きな方向性
3つの基本的な考え方 - 分かりやすい学習指導要領
高次の資質・能力をもとにした一層の構造化・表形式化・デジタル化
「学びに向かう力,人間性等」の再整理 - 柔軟な教育課程の在り方
調整授業時数制度の創設(義務教育段階)
個別の児童生徒に係る教育課程の編成・実施の仕組み - 情報活用能力の抜本的向上
質の高い探究的な学びの実現 - 教育の質向上のための「余白」の創出
標準授業時数の弾力化と時数精選の関係 - 教科書等の改善
教科書の重点化・内容の精選 - 学習評価の在り方
新たな観点別評価の方向性

シンポジストが印象に残ったこと
基調講演を受け,各シンポジストに印象に残ったことなどの感想を伺いました。
田内先生は「『得意』を伸ばし,他者と関わり協同することの大切さ」を子供と教師双方の立場ごとに,その必要性を話されました。
松原先生は次期学習指導要領に向けた期待感とともに,「小学校段階でどこまでできればよいのかという具体を示してほしい」との要望,3つの柱を「三位一体で具現化」することの重要性について話されました。
角屋先生は教科教育研究者の立場から,「育てたい子供の姿,使用教材,方法,評価の仕方」の大切さに言及され,「文部科学省が育てたいと考える子供の姿を明確にすることが分かりやすい学習指導要領につながるのではないか」と話されました。

「論点整理」が提示した具体的課題に関するシンポジストの意見
学習指導要領の構造化(「タテとヨコ」の関係)については角屋先生から,知識と能力が分離してしまうという誤解を生む危険性があるのではないかとの懸念が示されました。
調整授業時数制度の創設については松原先生から,今の学校現場の状況に「余白」がない中,教育の質の向上のために「余白」を生み出すことの必要性とその手立て,学びをデザインすることができる教師が不足しているのではとの不安,裁量的時間の創造と活用に対するやりがいと難しさに対するサポート体制,保護者への説明責任などについてお話がありました。
特定分野に特異な才能のある子供たちの教育課程に関わる課題については田内先生から,指導体制の組み方が課題だとし,そのためには指導方法の工夫・改善や人的な環境整備が必要との認識を示されました。

こうした意見を受けて栗山室長からは,学習指導要領をデジタル化することで生まれるメリット,調整授業時数制度の実例の可視化やノウハウの蓄積,通常学級でできること・できないことの使い分け,相談支援の体制の必要性などについてお話がありました。
また,これからの学校教育で特に身に付けさせたい資質・能力についてシンポジストに聞いたところ,田内先生は「コミュニケーション能力」を,松原先生は「自ら学び続ける力」を,角屋先生は「知を吟味する力(批判的思考力)・知を作り出すことに喜びを感じる力」を,北先生は「創造力」をそれぞれあげられました。
次期学習指導要領に期待していること
次期学習指導要領あるいは教育課程に期待していることをシンポジストそれぞれの立場から伺いました。
日々教育活動に取り組んでいる立場から,田内先生は電車の中でも,授業中でも見ることができるような「分かりやすさ,見やすさ」をあげられました。
校長の立場から,松原先生は「分かりやすさ・使いやすさ」に加え,教師に余裕がなければ優れた内容も絵に描いた餅になってしまうという視点からの「実現可能性の確保」,「保護者や地域とコミュニケーションを図るチャンス」となりうる点をあげられました。
教育研究者の立場から,角屋先生は情報を圧縮することが分かりやすさにつながるという考えから,「キーワード」を強調した示し方について言及がありました。
こうした意見を受けて栗山室長からは,「『分かりやすい・使いやすい』とは何のための『分かりやすい・使いやすい』なのか」というお話がありました。先生方にとって資質・能力が理解しやすくなり,単元や題材が構想しやすくなり,その結果として深い学びが授業の中で実現しやすくなるための「分かりやすい・使いやすい」であることを踏み外してはいけないとの考えが示されました。
その後,会場の参会者からの質疑・応答に続き,学習指導要領の改訂に関わる今後の見通しについて栗山室長からお話があり,シンポジウムは閉会しました。







教育課程企画特別部会における論点整理について(報告)
https://www.mext.go.jp/b_menu/shingi/chukyo/chukyo3/004/gaiyou/mext_00010.html
教育セミナー(一般財団法人総合初等教育研究所)
https://www.sokyoken.or.jp/business/seminar/